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世界はそれでも変わりはしない(4)◆gry038wOvE 【『探偵』/希望ヶ花市】 花咲家で、おれは花華の視線を一身に浴びていた。 この時には、おれはもうある程度、事の意図はつかめていたのだった。 これまで、左翔太郎の余計な気障と、佐倉杏子と花咲つぼみの間に流れた友人同士のコミュニケーションがかなりのノイズになったが、おそらく、肝心の真相がどうかはともかく、左探偵や佐倉探偵がどういう結論に至ったのかは読み込めていた。 それは極めて単純な答えだったが、決して安々と口にしたいものとは云えなかった。 しかし、これまでも言った通り、おれはその真実がどんな物であれ、花華に正確にそれを伝えるべきだった。 永久に探し物をさせ続けるよりは、ここで決着をつけさせておいた方が良い――それがおれたち探偵の信念なのだ。 経験上、これより苦い結末の依頼をおれは何度も目の当たりにしている。 彼女がいかに傷つくとして、それを告げる事は大したハードルではなかったし、少なくとも言いたくないなどと駄々をこねるような人生を送ってはいない。 「花華……もう、探し物はやめよう。それは、あまりにも意味のない事だ。既にこの件は、おれたちの手に負えない事――いや、既に叶える事が出来ない物なのだろう。おそらく、いつか見つかる希望があるとして、今のおれたちではそれを見つけ出す事はできないし、曾祖母を満足させる事もできない」 「何故ですか?」 こう言った時、花華は少々不愉快そうに眉をしかめた。 はっきりと言いすぎてしまったきらいがあるが、だからといってソフトに伝える事などできはしなかった。彼女にとって不快感が薄まるように言っても仕方のない事だし、結局のところおれに向けられる印象が少しばかり良くなるという事は、卑怯な事でもあった。 はぐらかさずに、おれが行き着いた結論は、彼女が不快がるように言ってやった方が良いのかもしれない。 本来、それは、不快にならざるを得ない本質を持つ結論だからだ。――言い方ひとつで愉快になれるものでもあるまい。 それを伝える義務をわざわざ無償で負ってしまった以上、そこから逃れる事は出来ない。 ……ただ、せめて全くの絶望の淵には立たせたくなかった。 おれは、ちょっとばかり言葉を選ぼうと頭の中を回転させていたが――そんな折、花華の方が続けた。 「――何かわかったなら、私にもわかるように事情を説明してください」 素敵に感じるほどに、彼女の声色は怒りのニュアンスも含まれていた。 しかし、彼女自身はまだそれを表さないよう、少しばかりソフトに返していて、まだヒステリックにはなりようもない様子だった。 本格的にマルボロを咥えたくなった。 それを取り出すような間だけはあったが、おれは結局取り出せずに、再び口を開いた。 「……わかった。すぐにこの件の真実を話そう」 「お願いします――」 「ただ、勿論だが、おれが推理したのは、あくまで左翔太郎と佐倉杏子がどんな結論に至ったか、という事だ。だからつまり、真実とは言い切れないかもしれない。こうなっては、明確な証拠も証言も残ってないからね。……ただし、やはりおれとしては、それは99.9パーセント確実な事だと思う。彼らも有能な名探偵であったから、おれは彼らの下した結論を全面的に信頼する。だから、きみもおれを少しでも信頼する気があるのなら、それはもう確実な真実だと思って、ひとまずは諦めてくれ」 そうでない理由がない。 それが最も合理的で、最も納得しうる結論だったからだ。ふたりの探偵は、調査能力に関してはけちのつけようはないレベルだと云える。彼らは、通常応えないような難しい依頼さえもこなし、ガイアメモリ犯罪を根絶に近づけた名探偵なのだ。 だから、この時、おれはそれを「真実」として告げる事に決めていた。 「……」 彼女は、返事はしなかったし、どうとでも取れるような表情でおれの方を見続けた。 応えるには勇気が要る。生返事は出来ない。それがわかっているから、無言なのだ。だが、安易な返事をしないのなら、おれはそれで良いと思う。聞いてからでも、諦めるか続けるか選ぶ事はできる。 問題は、こうして提示した問いかけの意味を理解しない事だった。彼女は、理解はしてくれた。だからこうして悩んだ。 おれは続けた。 「まず、おれから言っておきたいのは――きみの曾祖母がいくつかの後悔を口にしたと言っているが、彼女が本当に後悔しているのは、おそらく“探し物”の件じゃないのがわかった、という事だ」 「えっ……」 「おそらく、さっき告げたように、もっと、おれたちの手に負えない事こそが、きみに告げられた彼女の後悔の、ほんとうの正体なんだ」 ――いきなり、花華は絶句しているようだった。無理もなかった。 こう言われては、彼女の信じようとした「探し物を見つける」という行為は、曾祖母にとって何の意味もない話になってしまうかもしれない。ここまでの彼女の努力を無に帰す結果に終わるかもしれない、という事なのだった。 それに、ただ彼女の行いが無意味になるのではなく、この推理を以て、事件の未解決は確定する。 余命僅かな――そして迷惑や心配をかけてしまった曾祖母への恩返し、という純粋な想いと焦燥に対して、それはあまりに後味の悪い結果に違いなかった。 それならば、余命僅かな曾祖母の傍に何度も見舞いに行った方が良かったのかも、と悔いる事となってしまうだろう。 「続けるよ」 だが、おれにはそんな彼女への配慮はできない。この後の方が問題かもしれない。 それでも、おれは彼女にすべての推理を展開し続けなければならなかった。 「……ただ、勘違いしないでほしいが、きみの曾祖母にとっては、それを探す事は確かに重要な事だったはずだ。しかし、彼女には“それ以前に”、“大前提として”、“もっとやらなければならない事があった”んだ」 おれは、彼女の耳に入っているのか確かめながら、続けた。 「――たとえばだ。この依頼では、最終的にこのように二人に励まされ、逆に“託されている”だろう? それが、どういう事なのか、わかるか?」 「『信頼』されている、という意味ですよね……?」 「誰が?」 「えっ……おばあちゃんが……ですけど」 「――そうだ。そうとしか言いようがない。しかし、同じ探偵であるおれからすると、それはありえない事だと思う」 「どういう事ですか?」 この件の未解決は、「この件は諦めろ」「継続する」という意味ではなかったのだ。書かれているように、依頼人に対して「君がやれ」という意味であった。 探偵に限らず、まともな大人は依頼された案件に対してこうは切り返さないに決まっている。 「たとえば、これは、警察が市民に、『きみたちが犯罪者を逮捕しろ』と、医者が患者に『自分で治せ』とそう言っているに等しい事なんだ。……先に『信頼』を受けて仕事しているのは、我々探偵の方なんだから、本来は我々がそれを返さなければならない。達成できなかった時にはそれを伝える責務があるし、このように依頼人に丸投げして終わるわけはないだろう?」 確かに、確実にありえない話とは云えない。少なくとも、税金泥棒の警察官も、やぶ医者も現実にいる。 ……しかし、左探偵と佐倉探偵は、先に言った通り、「ハーフボイルド」ではあるが、おれも認める「名探偵」だ。プロとしての矜持は備わっている。難事件も解決しているし、過去の読める限りの記録を見ても、こうした不適当な行動を取った実績はない。 「でも、探しやすい場所に住んでいるのはおばあちゃんだったから……その状況なら、そう言われるのもありえなくはないんじゃないですか?」 「ああ、そうだな。確かに任せただけなら、そうも言えるかもしれない。しかし、その場合、『未来、きみが必ず果たせる』なんていう言い方はされない。彼はもう、明らかに何かわかっている。『必ず』と言い切っているし、その前に『きみが』としている。この気取って恰好をつけた言い方が、彼女や周囲には厄介だったんだがね」 実際、花咲つぼみも珍しく左探偵の返しには不満げな日記を書いているし、それは依頼人として当然の反応である。 「……そう――その気取り屋な性格はどうかと思うが、彼はプロだった。過去の事件を見ても、それは間違いない。では、それでいて、彼らは何故こんな結末にしてしまったのか。その理由を、おれは、この伝言を見て最初に疑問に思ったんだ」 「――」 何故、二人のプロの探偵が同じようにプロらしからぬ結論に至ったのか。そして、何故依頼人は事情を説明されてそれを納得し、励みとしたのか。 それがおれにはわからなかったのだが、紐解くうちにおれは事情を察する事になった。 ――そう、言った通りの『信頼』を向けたとしか考えられなかった。そして、何故『信頼』したのか、が問題だった。 「おそらく、そこで左探偵は、この問題はまず花咲つぼみにしか解決しえない、あるいは彼女が解決すべき問題と確信し、彼女なら果たせると信じたんだろう」 「おばあちゃんが解決すべき問題……?」 「――ああ。だから、左探偵と、それからあとで再調査した佐倉探偵は“自分が関わる問題”としてのその依頼を『終了』し、それでいて“花咲つぼみが解決できていない状況”を『未解決』として、ファイルに綴じたんだよ」 「それが、『中断』ではなく『終了』としていた意味……」 「その通り」 いつの日か、花咲つぼみがそれを達成したのを知って、ファイルから外して処分するつもりだったのかもしれない。しかし、その日は来る事なく、二人が先に世の中に処分され、謎だけが後の時代に残されてしまったのだ。 これが、依頼が『中断』されずに『終了』した理由だった。 何かしらの闇に触れたわけではない。――むしろ、探偵にあるまじき感傷だ。彼らのハーフボイルドが、事件を後から見て不可解な物に見せていたのである。 「おれは、そこまで推理した後で――そういう彼らの感傷から逆算して、探し物のありかもわかってしまった」 花華は不思議がっているようだった。 まだ答えは見えていない。いや、現段階で彼女がどれくらい日記に目を通したのかわからないが、たぶんこういえばわかるのだろう。 おれの答えは、これ以外に考えられなかった。 「きみの曾祖母が生涯かけて……病床につくまでずっと研究していた、管理外の異世界への渡り方と、ある世界の捜索。彼女はきっと、この時には既に、左翔太郎や佐倉杏子に約束していたんだ。そして、二人は花咲つぼみを『信頼』して見守っていた」 「まさか……」 曾孫である花華には、この言葉でわかったようだった。 曾祖母の事を愛している彼女にとっては、何度も聞かされた話だろうし、もしかしたら、異世界移動の技術についても必死で学んでいた姿は、何度も目にしていたかもしれない。植物学者としてだけではなく、ある一人の男の友人として。 それはついに報われなかったのかもしれないが、未解決事件を一つ作り出してしまったのかもしれないが――しかし、彼女の仲間たちも信じるに値するほどまっすぐな努力を積み重ねた、純粋な願いだった。 響良牙を探しに行く、と書かれた日記。 おれは、それを目にしてしまった。 「――結論を言う」 それは、美しく、残酷な答えだった。 「そう――――きみの曾祖母が生涯かけて探した、『変身ロワイアルの世界』こそがその探し物――――きみの曾祖母が失くした骨董品、“オルゴール箱”のありかなんだよ」 そう――そこからのシナリオは、単純だった。 これより、様々な事を一方的に花華に話した。 この八十年、果たして何があったのか。 左探偵は、おそらく、紛失時期を考えたり、花咲つぼみの具体的な話を聞いたりしたうえで、変身ロワイアルの「支給品」としてそれが異世界に置き去りにされていると結論づけたのだと思う。 左探偵の場合も、同様に「大事な所持品が向こうの世界に置き去りだった事」「変身ロワイアルの戦いの前後、事務所や私物から紛失した物があった事」に思い当たる節があるのなら、余計に推理の材料が整っていた可能性が高いだろう。 これがわかった時点で花咲つぼみにきっちり説明すればよかったのだが、彼は気取り屋な性格を見事に発揮し、「未来の君が果たせる」などと持って回った言い回しだけを残して依頼を終えた。 おそらく、この時は彼女が「変身ロワイアルの世界」を見つけ、そこで共にオルゴールを発見し、「おれの言っていた通りだろう?」とでも声をかける算段が彼の中ではついていたのではないかと思う。気取り屋のやりたい事は見当がついている。 しかし、そのシナリオ通りに行けばよかったが、彼は事故によって旅立ってしまった。 風都の大人として、そして仮面ライダーとして戦った男として、恥じない誇りある最期だが――ひとつだけ、置き土産を残してしまったのだった。 ――それから数年後。 結果的に、「謎」に変わっていったこの案件を引き継いで再度推理したのが、佐倉杏子だった。 しかし、もしかしたら左翔太郎と長らくバディでもあった彼女は、左探偵のそういった性格ごと読んでいたのかもしれない。当初は探し物案件として必死で探していた彼女も、ある時――同様の結論に辿り着いた。 それはおそらくだが、あの左翔太郎の自筆のメッセージについて思い出したか、前回の調査報告書の最後の一文に着目した時の事だろうと思う。 そして、彼女の場合は、きっとくだらない謎を残して向こうに逝った相棒に呆れつつ――しかし励ますように、花咲つぼみにすべて事情を説明した。 ――そう、変身ロワイアルの世界に行かなければ、大事なオルゴール箱は見つからない、と。 ――だとするのなら、探偵である自分たちの仕事はここまでだ。 その研究をしている花咲つぼみこそがその世界を探し、そのオルゴール箱を見つけなければならない。 そう思い、佐倉探偵は――、響良牙の生存を信じ、あの世界に彼が取り残されていると信じ、そして、その世界に辿り着きたいと思いながら日々を重ねる花咲つぼみに、事件の解決を託した。 花咲つぼみの、友達として。 変身ロワイアルから八十年が経過した今。 おれは未解決ファイルとして残されたデータを読み、花華は曾祖母から「後悔」としてそのオルゴール箱の依頼を聞いた。 そして、おれたちは出会い、彼らが辿った結論に、遂にたどり着く事になった。 ……つまりは、そういうわけだ。 ――――おれはこのすべてを花華に説明し終えた。 ……実に、人々を翻弄してくれるオルゴール箱である。八十年前と今とをつなげるオルゴール箱だったというのである。 おめでたいロマンチストからすれば、それはロマンのある話に聞こえるかもしれないが、おれからすると、この結論には問題がある。 八十年という今にもまだ、続いてしまっているという事だった。 「しかし……きみの曾祖母は、彼らから託された約束事を果たせないまま――自分の余命が永くないという段階に来てしまった。だから、『オルゴール』ではなく、『あの世界に行けなかった事』こそが――『響良牙に会えなかった事』こそが、彼女の後悔の一つなんだ。そう――『変身ロワイアルの世界に行く事』『響良牙に会う事』『オルゴールを見つける事』すべては、彼女の中で同じ意味を持つ言葉だったんだろうな」 その世界に行く方法が見つからないいま、彼女の後悔はすべて後悔のままなのだ。 当然、花華が花咲つぼみの後悔を果たす事もできなければ、花咲つぼみが最期の時までに響良牙と再会する事もない。 「彼女は、左翔太郎が死んだ事で、何よりその『信頼』を重く背負いながら生きる事になってしまったのだろう。彼が信じた未来を実現させなければならなかった……それから先、『涼邑零』が、『孤門一輝』が、『蒼乃美希』が、『佐倉杏子』が、『高町ヴィヴィオ』が…………彼女の中で背負われていったんだ。そして、彼女だけが残り、いまも病床で後悔としてそれを告げた……それは、今生、果たせない約束への謝罪として……きっと、胸が張り裂けそうな想いで…………」 花咲つぼみが既に九十四歳。何度となく医療の恩恵にすがりながらも、遂にその生命は果てようという段階にきている。 それに対し、響良牙はもう、生きていればの話だが、九十六歳。――何もない場所で、何もない世界で、生きているとは思えない。 もっと言えば、だ。 彼女が見つけ出そうとした世界――それさえも消滅していると言い切れない。殺し合いの為にベリアルが用意したステージであるのなら、そこはその役目を終えるとともに消えているだろうし、彼女たちが「送還」されたのもそんな意味があるように思えてならなかった。 頭の良い彼女は、とうにその結論にだって辿り着いていたはずだ。 しかし、信頼という呪いにかけられ、研究をやめる事もできず、一人で……ただ一人で……彼らが信じる自分を信じながら、彼女は生きた。孤独になっても、彼女は未来を信じ続け……そして、未来を生きる若い曾孫に言葉を託した。 彼女の生きる未来なら――オルゴールは、見つかるかもしれない、と。 ……残念ながら、おれが有給休暇を使ってたどり着いた結末は、この通りだ。 はじめに察した通りだ。解決はできなかった。 それは、確かにおれにとっても――とても後味の悪い結末だった。 ◆ ……ここで話が終わるわけではない。 ここで終えたいならば、読むのをやめてしまっても構わないが、まだ触れていない『死神の花』という事件について気になるならば、これより先の物語に入ってもらいたいし、おれもすっかり忘れていた前提を告げよう。 そう、おれはこの時点で、あまりにも未熟だった。 人生というのは、本当に何が起こるのかわからないゲームだという事――そんな立派な前提がある。だからこそ、「結論」というのは変わってしまう場合がある。 何しろ、終わり、結末、というのはどの段階を以ての話とも言えない。死んだり、世界が滅びたりしても、生き返れば、世界が元に戻れば、ついにそれはバッドエンドではなくなってしまう。継続した「その後」が問題なのだ。 例えば、敗北していたはずの試合が、相手の不正が発覚して勝利となるとか。 例えば、有罪が確定した判決が、再審によって何年越しに無罪だと明かされるとか。 そういう話も聞かないものではないし、つまり、「結末」「結論」というのは、その時点でそう思っているだけに過ぎない事でもあると云えるのだ。 それが、おれたちの生きている世界のルールだ。 ……いや、こう言ってしまえば誤解を招くかもしれない。 これは、悪い方にも話が行くと云える。上のふたつの例だって、見つからなかったはずの不正が発覚して敗北になった奴にとってはバッドエンドだし、犯人が逮捕されていたと思って安堵していた被害者(あるいは遺族の場合もある)にとっては事件が迷宮入りなのだ。 八十年前に、終わった筈の事がひっくり返される事だってある。 あの時の事がハッピーエンドなのかどうか、それをどう認識しているかはわからないが――ハッピーエンドだと思っていたとしても、あの後、左翔太郎は不幸な事故に遭ったし、おれは花咲つぼみが一概に幸せになれたと云えない状況だったと感じている。 だから、話を見届けるにはいつも……覚悟が必要だ。 ◆ ――ここは、希望ヶ花市植物園だ。 半民営化した植物園で、花咲薫子を理事とする。これが、花咲つぼみの祖母の名前らしく、おれからすればもうずいぶんと古めかしい名前だった。 ……と、おれが言ってしまうのも何だが。 「……」 「……」 そこを取り巻く空気は、最悪だった。 謎は解決したが当初行く予定だったのだからせめて最後に花華と立ち寄ってやるか、とここに来てみたは良いのだが、何しろおれには見たいものもない。気分転換のつもりだった。彼女にとってはかなり落ち着く場所らしく、大好きな植物に囲まれる場所でもある。 おれにとっては、園内が静かなのは実に良かった。良いのはそれだけだ。草なんてどれも同じに違いない。 ……あのあと花華が泣きだしたのは言うまでもないが、この空気の中で再び泣き出そうとしている。 おれは、流石にその涙ばかりは受け止めるしかなかった。彼女が確実に涙するのを予期したうえでの言葉だった。不思議と、それまでほどの居心地の悪さはなかった。おれもすっかりこの少女の涙に関しては慣れてしまったのかもしれない。 しかし、やはり……対処には、困る。 「……なあ、花華。きみの曾祖母は幸せだったと思うか?」 おれはそれでも、ふと訊いてしまった。 オルゴール箱の所在よりも、おれにとってはそちらの方が大きな疑問であり、心残りにさえなっているのだ。 この依頼の結論を踏まえると、なお納得はできないのだった。 「……え?」 「彼女は――変な力を得て、他人の為に戦って、報われないどころかその力に目を付けられて殺し合いに参加させられて、友人をたくさん失って、挙句に帰ってからもそこでの友人の響良牙の為に研究していた。世の中に認められたは良いが、その響良牙を救うといういちばんの目的は……願いは、果たせなかった事になる」 彼女の方を見つめるが、花華の感情は図れなかった。 どういう感情が返ってきたところで、おれは、覚悟はできている。過度に彼女に干渉するつもりはないし、この話が終わった以上は、最後にどういう心情を抱かれて終わっても構わない。 しかし、謎が残って終わってしまうのは許しがたい。 おれは遂に、花咲つぼみ本人に会う事もなかったのだから。 「勿論、殴られるのを承知で言っているが――それを悪いがおれには良い人生には見えなかった。きみは、あの日記を見てどう思った?」 ここにいる桜井花華が――彼女がプリキュアとしてどう戦っているのかは知らない。 しかし、それが戦うという事だ。あらゆる覚悟と、報われない事への諦めが必要なのかもしれない。 そして、奇跡的に花咲つぼみという人間は、八十年前それが出来ていた。 それでも、それが出来ていたところで幸せとは云えない。 彼女は人間なのだ。規律や人々の生命を守り、おれたちの身を無償で守ってくれる素敵なロボットではない。 その性格は、べつに嫌いじゃない。変だとも思わない。しかし、いつもそういう人間が報われない世の中だ。世の中は、常に間違いを正せないまま回る。そういう風に回り続ける。世界は、変わりはしない。 そんな世界に生きていて、彼女は幸せなのか。 ただ、そこで返ってくる返答次第で、おれは非常に後味の悪い気持ちで花咲家との関わりを絶つ事になるのだろうと思った。 「……それは」 花華が何某かの感情を載せて口を開いた、その時だった。 事件が更に続く事になり――――『死神の花』の事件へと進展する事になるのは。 結果的に、この問いかけの答えは、直後の出来事によって保留されたのだ。 ◆ 『――なら、あなたたちが彼女の願いを叶えてあげればいいじゃない』 ◆ おれたちは、その瞬間、あまりにも唐突に、奇妙な声を訊いたのだ。 若い少女の声だった。頭の中に響いてくるような、エコーのかかったような声。 「えっ……?」 ふと、会話を中断して、おれと花華がそちらを見ると――深紅のドレスの少女がそこに立っていた。 『――』 長い黒髪をなびかせて、見た事もないほど白い肌で無表情にこちらを見ている少女。 それは、極めて心霊的で、この世のものとは思えないオーラを発して、花々の中に溶けていた。 「きみは――?」 花華とは、違う。もっと、透けているような何か。 おれは、オカルトは信じないが、その瞬間に背筋が凍った。 花華を見ても、彼女を知らないように見えた。 それどころか、おそらく誰が見ても――その少女に生気を感じる事はないだろうと思えた。 彼女に父や母がいて、平然と団欒している姿がまったく想像ができない。どこかの病院で白いベッドに横たわって外を見ているような、あるいは本当に森の奥深くに住んでいるかのような――そんな生活をしている想像しかできない、ありえないほどの、美人。 それはあまりに不気味で、見ている側の精神に支障を来すような膨大な不安をもたらしていた。 『……やっと見つけた、桜井花華――“もうひとりの私”。それに……そっちの名前は知らないけど、ついでにあなたも』 「きみは……一体、誰だ?」 『訊かれなくても後で全部説明するから。――とにかく、時間がないの。桜井花華には、全ての世界の因果律を守ってもらう使命がある』 「どういう事だ……?」 おれはさっぱりわけがわからなかった。 希望ヶ花市植物園に突如現れた少女――名も知らぬ少女。 しかし、それでいておれたちの事情をよく知っていると見える。そんな相手におれは警戒を解かない筈がない。 『だから、ついてくれば、後で全部説明するから。――とにかく。今は、私についてきてもらうわ』 次の瞬間、彼女の姿は小さな黒猫の姿へと変身し、突如その猫の前に現れたオーロラの中へと消えていった。 きわめて不可解な状況に違いなかった。特に、おれにとっては彼女以上に慣れていない事象である。 おれと花華は目を見合わせた。 さっきの質問は、一度は保留だ。それよりか、いま一度訊きたいのは、この後どうするか――彼女の変身した黒猫についていくか否かだ。 「探偵さん、とにかく行ってみましょう……! この反応は、管理されていない異世界です――」 それが、彼女の答えだった。 おれはそのまま、彼女の背中を追っていた。 ◆ 【『探偵』/異世界移動】 花華が躊躇なくそのオーロラの向こうに突き進んだ時、おれはまったく躊躇せずにその後を追っていた。 一応、一番傍にいた保護者としての責任だと思ったのだ。知り合いでもあるし、元々依頼ではなく「私的手伝い」とした理由も「鳴海探偵事務所の存続にとって不可欠な家系の人間だったから」だとするのなら、彼女がおれの視界で危うい目に遭っているのを見過ごさないのも筋だろう。 自分の力でオーロラを出せる人間は珍しく、あまりに怪しい物であったが、それが異世界を渡る際の化学反応のひとつなのは中学校の理科の授業で習っている。あまり詳しく勉強する事などなかったが、今や異世界移動の際には一瞬のオーロラを目にするのは珍しい事ではない。 しかし、よく言われるように綺麗な反応には思わなかった。 おれはむしろ、その狭間に見える世界が谷底のように恐ろしく見えた。誰も知らない場所にいざなわれるような気がしてならなかったからだ。 今回の場合も、オーロラの中に来てしまっていた事を既に後悔している。 この先に何があるのか、おれはわからないままに異世界に来てしまった。 少女の正体もわからない。 そのうえ、黒猫に変身しているときた。 「もう一度訊くが……きみの名は? どこに行くつもりなんだ」 黒猫に聞いてしまった。 猫に話しかけるのは、ちょっとばかり異常だ。……と思ったが、振り返れば、おれは普段からよくやっていた。 尤も、返事を期待するのは初めてだが。 すっかり謎の少女は、黒猫の姿としてオーロラの中を歩いている。彼女は、まったくこちらを見ようともしない。 こんな奴についていくのは不安だが、花華は妙に肝の据わった様子で前を歩いていく。 猫と話していても仕方がない。おれは、人間である彼女の方に意識を向ける事にした。 「なあ、花華、きみは気にならないのか? 人間が猫になったんだぞ」 「……そういえば、探偵さんはあまりその辺りの文化が入ってきてない世界の人でしたね。別世界だとこういった変身魔法はそんなに珍しくないですよ」 「――ああ、そうだったな、それはわかってる、確かに人間から猫になれる奴はいるな。だが、猫に変身できる人間がいるとして、きみの名前を知って植物園に追いかけてくる事もなければ、オーロラを出す事もないし、正体を明かさずに因果律の話をして異世界に誘いに来る事もない。もっと言えば、管理反応のない異世界に行く事もできないだろうな。きみならどうする、この状況でついていくか?」 もはや彼女の性格は常識がないと割り切っている。 直前まで泣きそうだった彼女は、あまりにも毅然とした顔つきになっており、逆におれの方が泣きそうな気持ちになっていた。まだヤクザとの戦いの方がわかりやすい暴力だから自分の身を守れる確率がある。 彼女はヤクザどころか、この状況でも物怖じしないというのなら、それはおれよりはるかに心が強い事と云えるだろう。 今、万が一、少女が何かのおれたちに不利益な目的を持っていたなら、このままどこかの世界で神隠しだ。 「……確かに怪しいですけど、こういう事象を解決するのが、私たちの仕事です」 「中学生のアルバイトだろう」 「でも、今の世界を支えるうえでは、私みたいに超常的な力を持つ人間の行動が必要なんです。今の状況下、彼女が時空犯罪者ならば撃退に踏み切るべきです」 「それなら、時空管理局に所属する組織人として、向こうにきっちり許可をもらってから行動しろ。許可されないだろうがな」 「だから、今こうして勝手に進んだんです」 などと、噛み合わない会話を続けていると、一番先頭の猫がこちらを向いた。 『――騒がしいわね。私からあなたたちに危害を加えるつもりはないから。……ただ、危害を加えるかもしれない相手と会わせに行くだけ』 彼女はさらっと云う。 なるほど、特別な手当が出て然るべき危険な話におれたちを乗せようというわけである。 花華もどうかと思うが、この少女の方がおかしいと云える。 彼女が危害を加えないとしても、おれたちには関係ないのだ。「お前が危険人物かどうか」ではなく、「おれたちが危険な目に遭うかどうか」――それが問題である。 さて、おれは再び花華に振る。 「――と、この子猫ちゃんは言っているが、花華。引き返す準備は?」 「ありません。事情を聞きましょう」 「なるほど……。だとするなら、悪いがおれひとりで、引き返す事にする」 おれは、もはや花華を放る事にして反対を向いた。義理の追いつく相手ではなかった。ここから先は自己責任だ。 おれは、広がるオーロラの向こうをたどれば、きっと元の希望ヶ花市植物園に戻れるだろうと思った。 しかし、そういう風に甘い考えを浮かべた矢先、背中に声がかかった。 『……戻れないわよ。ここに来たからには、私の望む行先にしか行けない』 「――じゃあ、行先を変えてくれ。さっきの希望ヶ花市、もしくは、おれの世界の風都へ」 『残念だけど、変えるつもりがないもの。ここに来た時点で、あなたはもうこの話に乗ったものとしてもらうわ。電車の車掌が一人の乗客の意見で行先を変える事なんてないでしょう。――それに、あなたも探偵なんでしょう?』 「悪いが鳴海探偵事務所は臨時休業中だ。それに、きみから依頼を受けた覚えがない」 『それなら依頼として受けてもらう形にするわ。依頼料は弾む。ただし成功報酬よ』 「……いくらだ?」 金の事をいわれると、つい聞いてしまうおれだった。 成功できる見込みがあるのなら、おれはその依頼に乗ってしまう。達成するだけ給料が弾むのだから、おれに乗らない理由はない。 黒猫が口を開ける。 『――「あなたがこれから生きる未来」、そして「世界の命運」でどうかしら?』 ……冗談だろ。 ◆ 『――そう。あなたたちに今から頼みたいのは、「世界の命運」に関わる事よ。あなたにとっても悪い話ばかりではないわ。というか、もう乗らざるを得なくなる』 彼女は、おもむろに切り出した。 やはり、花華を追うべきではなかった。彼女の場合は、世界の命運を託されてもおかしくない出生だが、おれは違う。ただの探偵だ。 唯一、鳴海探偵事務所という特別な探偵事務所と雇用契約を結んだ件だけが、こうした超常的事象とおれとを結び付けてくれるかもしれないが、少なくともおれはヒーローではないし、特別な力を持たない。 多少、普通の人より喧嘩が強いだけ。……そう、それはあくまで、“普通の人”より、だ。 しかしだが、ひとつ残念な事がある。今回は別に巻き込まれたのではない。 花華の背中を追ったとはいえ、それは自分の意志で追ってしまった。そして、引き返せないらしい。文句を言わず、潔く諦めるしかなかった。 あとは、もう彼女の話を聞いて、どういう形であれ生きて元の場所に帰ってみせるだけだった。それしかない。 彼女は続けた。 『申し遅れたけど、私の名前は魔法少女、HARUNA ハルナ 。インキュベーターとの契約により、魔法少女となり――今はとある勢力によって与えられた任務を果たす為に、あらゆる時代、あらゆる世界を渡り歩いている』 「とある勢力とは?」 『――ただ、私には、契約する前から長らく「実体」がない。あるのはHARUNAとしての情報だけ。だから、こうしたアバターを使っているけど、別にさっきの姿もこの姿も本当の姿というわけではないわ』 いきなり、質問を無視されている。まあいい。 情報のみを抽出して実体から分離する、一つの技術――実に怪しいというか、この時代から見ても先進的な技術の話をしている。……いや、技術としては可能かもしれないが、おそらく倫理的問題・安全面での問題をクリアーできていないというのが正確なところか。 彼女が本当に魔法少女であるというのなら、「ソウルジェムに意志を転移する」という技術を太古の昔から可能としているのだ。 それに、言い換えれば「情報体」――つまりデータ人間は、おれたちの世界の八十年前の技術だって可能だ。おれの探偵事務所にだって、まさしくそんな探偵がいたのだから、まあ、ありえない話ではないとは云える。 ……それから、彼女の名前はHARUNAというらしい。まったくもって、おれの言える事じゃないかもしれないが、呼び名があるというのは便利だ。いつまでも「少女」「黒猫」では仕方ない。 なんだか、奇妙なほどに花華(ハナ)とよく似た名前であった。HARUNAは、そんな自分と似た名前の少女の名前を呼んだ。 『――桜井花華』 「何でしょうか?」 『……あなたをこうして呼んだのは、他でもない。この八十年を耐えきった世界たちが、ある理由によってその形を崩すのを防ぐ為よ。――つまり、「この世界を壊させない事」が、あなたの使命。そっちのオマケは、残念ながら本当にオマケね。来る必要はないけど、とりあえず役には立ってもらうわ』 彼女にとっての役割は、『オマケ』か。 まあいい。花華にとって『探偵』であるとしても、彼女にとって『オマケ』であったというだけの事。これから何の役にも立てないのなら、おれは『オマケ』として見届けよう。 尤も、役に立つとか役に立たないとか以前に、彼女の云っている事がよくわからないのが正直なところだが。 「……HARUNAさん。ある理由によって形を崩す、と云いましたけど、それはつまりどういう事ですか? 管理局には一切聞いていませんが――」 『そういうのも後で全部言うから、とにかく質問を挟まず黙って聞いててもらえる? まあ、ひとつだけ答えておくと、あなたが管理局から一切聞いていないのは、単に無能な管理局が事態を把握していないからよ。……尤も、それを感知できる力がないから当たり前だけど。それに、あなたは確かにその組織の一員ではあるとしても、決して全情報を開示される権利がある立場ではないでしょう――?』 そう言われ、花華は少しばかりたじろいだ。 こうまで強く、敵意や不快感を向けられて言われれば、彼女が泣き出すか、あるいはさすがに怒り出すのではないかと心配になった。 おれが言うのも何だが、HARUNAももう少し不愉快にならない言い方を探せないのだろうか。……何にせよ、この「情報」は、よほど性格が悪いと見えた。 この性格の悪い「情報」は、そのまま続けた。 『――で、当面の伝えたい事情は簡単よ。いま、花華の曾祖母、花咲つぼみ――えっと、今は違う名前だっけ? ……まあいいわ。とにかく、花咲つぼみが変身ロワイアルというゲームの最後の生存者という事になっているかもしれないけど、実はもう一人だけ、あのゲームには生き残りがいるの』 「花咲つぼみ以外の生き残り? そいつは誰だ……? って、訊いても無駄か……」 『そして、世界を守る為の私たちの急務は――――』 案の定、質問は無駄だった。彼女は勝手に話を進める。 この黒猫は、その先の言葉を冷静に告げた。 『――――その、もうひとりの生き残りを、“殺す”事』 おれの質問を無視して、HARUNAから告げられた指示と目的。 それは、探偵に依頼して良い仕事でもなければ、当然彼女の思惑通りにプリキュアに任せて良い任務でもない。そもそも、人に頼む時点でどうかしている――何者かを殺害しろ、というのが彼女のおれたちへのメッセージだった。 こういう風に言われ、おれたちは言葉を失った。 彼女が続ける言葉を、おれたちはただ聞くしかなかった。 『……あの変身ロワイアルというゲームの勝利条件によって得られるのは、「どんな願いも叶える権限」だった。その事は知っているわよね』 おれはふと思い出す――何人かの参加者が、その条件を信じて「願いを叶える為」に戦いに臨み、そしてそれを果たす事がないまま散った事を。 そう、花咲つぼみの友人の中にも、ただ一人だけそんな願いを伴ったまま戦った少女がいた。家族の蘇生という、極めて年頃の少女らしい純粋な願い。 しかし、結局、願いを叶えた参加者はどこにもいない。最後の一人が決する事なくゲームは終わったし、あの言葉を投げかけた主催者の方が敗北した為にその権限が本当なのか偽りなのかもわからないままに物語は幕を閉ざしたからだ。 もっと言えば、その願いを叶えようとした人間が「主催側」にもいたが、その願いはほとんど本人が望む形で叶いはしなかった。 ある者の蘇生を望み、それを叶えはしたものの正しい形で蘇らなかった加頭順やプレシア・テスタロッサ。 世界を取り戻す事を望み、それが叶った後に世界は元の形に矯正されたイラストレーターや魔法少女。 そして――世界の支配を望み、一度は世界を支配したが、そのすぐ後に敗れ、世界の支配を叶えきれなかったベリアル。 願いとは常に皮肉であるともいえた。 「ああ、だが、それがどうかしたのか? ――いや、こちらから訊いても仕方ないんだったな。……続きを頼む」 『……つまり、その願いは今、あの殺し合いの生存者が一人になろうとしている時に――その優勝者に託されようとしている』 「――優勝者、だと……?」 『そう。あの殺し合いは、一度収束したように見えたでしょう。でも、本当の意味で最後の一人になるまでは――決して終わりはしないみたいなのよ。たとえ加頭順やカイザーベリアルがいないとしても、もっと大きなシステムが動き続けている。つまり、あれから八十年間、「変身ロワイアル」はずっと続いていたの。参加者たちが互いに危害を加える事はなかったかもしれないけど』 殺し合いはまだ終わっていないだろう、という想い。――それは、少し前におれが考えた事とまったく同じだった。 ある意味で、それは現実だったと、彼女は云うのだ。 しかし、その意味合いが――おれの思った形と、彼女の云う形で明らかに違う。 おれは、生還者がまだ縛られるという意味で告げていた。しかし、彼女の言い分によると、あの殺し合いのシステムそのものが残存しているという。 その事は、おれには関係のない話だが、驚かざるを得なかった。 信頼の置ける情報ソースではないが、作り話にしては妙に詳しくもある。少なくともいま話している内容は正確な情報も多いし、おれは彼女のいざなうままにオーロラを辿っている。妄言発表会のやり方ではない。 彼女は続ける。 『――そして、その生存者が、このまま花咲つぼみの死とともに願いを叶える権限を得たとするのなら、“彼”が望む願いはひとつしかない』 「それは――」 『――それは、この世界が歩んだ歴史、この八十年をリセットする事で、世界がそれぞれ独立し歩む「本来の形」にする事』 「本来の形……?」 『そう。実感がないかもしれないけど、あなたたちが生きている世界は、決して本来の歴史の通りには進んではいない。あの殺し合いがなければまた別の未来を――もしかしたらもっと幸福な未来を歩む事になったでしょうね』 「――」 おれが、花咲つぼみを通して考えた事に違いなかった。 あの殺し合いに巻き込まれた事による彼女への不幸は計り知れない。 日記をめくって書いてあった事――そのすべては、端から見れば不幸と戦う健気な少女の書いた悲しみ。 そして、おれが追って結論したのは――仲間に強く託された願いを叶えられないまま旅立つ事に未練を持った、無力な老婆になったという事。 「なるほど……」 生還した事がハッピーエンドにはならない。生還した人間がその先を生きる事は、常に戦いだった。 ふと、彼女の友人の死なども……彼女の友人が殺し合いに乗った事なども、頭をよぎる。 明確な犠牲者がいた。そうなるべきでない事があった。 あるべき事象か、あるべきでない事象かと言われれば、後者だった。 『そして、本来はそれこそが個々の世界の「正史」であり、「オリジナル」と呼ばれる歴史なの。いまあなたたちが生きている世界は、変身ロワイアルの介入ですべて変わった二次的世界「セカンド」と呼ばれる別の作られた偽の歴史よ……。でも、こういう形になったから、辛うじて一つの世界として成立し、持続しているし致命的な不安定はない。だけれど、万が一、それが優勝者の願いで「オリジナル」の形にもどれば――』 おれは、この説明を聞いて即座に理解はできなかったが、咄嗟に花華の方を向いた。 タイム・パラドックスという言葉が思い出された。彼女が言っているのは、それだ。 この世界は既に、変身ロワイアルが発生させた「タイム・パラドックス」によって生まれ、そして育った歴史――おれたちにとっては正しくとも、決してあるべきでない形の世界。 だが、そのタイム・パラドックスを優勝者が正してしまったとするなら、この世界からあらゆるものが消えるに違いない。 それがその言葉の示す意味だ。 『――たとえば、わかりやすく言うと、桜井花華。あなたの存在は、消える。花咲つぼみが別の男性と出会い、別の子供が生まれ、きっとあなたの存在しない世界として再び世界は歩んでしまう。他にも多くの存在は消滅し、この時間は消える。八十年もあらゆる因果律が集った以上、今からすべて壊される事による被害は計り知れないわ。たぶん、そっちのあなたも消える。八十年が残した影響の中で、あらゆるものが消えるわ。――それから、たとえば、折角技術の相互補完により安定していた魔法少女の宇宙なんかは、再度、崩壊の危機を迎えて悲劇の世界に戻ってしまう』 「だからきみは――もう一人の生き残りを殺しに行くのか? あ……いや、殺しに行くというんだな」 『ええ、この歴史は、「オリジナル」からすれば間違ってはいる。本来殺されるべきでない人たちが殺し合いをしたけれど――その反面、殺し合いや殺し合いの後の歴史で多くの命や想いが残り、ある人たち、ある世界にとってはむしろ幸せなカタチを残している。そんなこの偽の歴史を守るのが、私の使命よ』 おれは傍らの花華を凝視し続けた。HARUNAの言う事が本当ならば。彼女もまた、彼女やその勢力の恩恵を受けて守られる事となる――もっと言えば、あるいはおれもそうかもしれない。 バトルロワイアルによって別の歴史を歩んだ世界において、その後の歴史で生まれた子供はすべて、消滅のリスクが極めて高い状態だと云える。あれだけ大規模な出来事が発生した中で死んだり、影響を受けたりした人間は膨大であるし――この八十年で生まれたものはおそらく、すべて消えるだろう。 作り話にしては、設定が凝っていた。 『これから私たちの行く先――そこに、もう一人の生存者が生きているわ。言い忘れていたけど、彼は、不老不死の「死神」となっている』 「不老不死の死神……? きみは、不老不死の人間を殺せと――?」 『そして、これからあなたたちに行ってもらうのは、花咲つぼみの遺伝子情報を持つ花華や、先にあの世界に移動した“彼”。あとは、私のような“特異点”の情報端末だけが潜れる場所、――――「変身ロワイアルの世界」よ』 「……冗談だろ」 彼女は、今、さらっと何を言ったか。 今からあの凄惨な殺し合いの現場へ――花咲つぼみが探し求めた、変身ロワイアルの世界に連れて行くと、よりによって今日、このタイミングで、そう言ったのだ。 いくらなんでも、あまりにもタイミングが良すぎると言わざるを得ない。おれたちの話を聞いていて、それで騙す為に話をしているとも言えない。 八十年、それから、これから先の歴史において、そんな日はいくらでもあったはずだ。それが、よりによって今日重なるというのか。 ……いや、だが、待て。 先入観を捨てて考えるのなら、タイミングの良し悪しは関係ない。問題は、そんな主観よりも、確固たる事実の方だ。 本当に、これからこのオーロラで変身ロワイアルの世界に行けるのなら――おれは、こいつを信用してもいいかもしれない。 そこはいまだ誰も到達できない場所であるし、その不可能を可能とするのなら、彼女がそれだけ大きな力や影響力を持つ少女だと考える要因になる。 本当にそれだけ世界の話を知っているのなら、彼女もあるいは、変身ロワイアルの世界への行き方さえ知っている、と云えなくもない。 それにしても、何よりそこにもう一人参加者がいる――不老不死となった参加者がいるとするのなら、それは、まさか。 おれは、変身ロワイアルの世界に残っている参加者を思い浮かべた。 二人だけ、候補が浮かんだ。最終決戦でベリアルが倒されるまでの瞬間に生きていたが、生還はしなかった人物が二人いる。 一人は、消滅した。 一人は、ベリアルと相打ちになり、生死不明となった。 だが、「死亡」は観測されていない。 『――そして、そこであなたたちが殺すべき死神は、かつて――ベリアルにトドメを刺して爆発する時、エターナルメモリの過剰適合によって「永遠」の身体を得てしまった少年――』 おれの導き出した結論を裏付けるように、彼女はそう告げた。 そして、その名前を出すよりも前に、おれは呟いていた。 「響、良牙……!」 それが本当ならば――おれは、八十年間島に残り続けていた迷子と、ガイアメモリという化石に同時に出会う事になる。 花咲つぼみの確信通りに響良牙は生きており、そして、おそらく確信を超えたところでずっと――八十年も、生きていた。 恐ろしいほど、タフな男でもないと生きられない歴史を背負いながら。 しかし、それを殺せとは、あまりに残酷だ。 おれが殺し屋だったとして、受ける気にならないような依頼だった。 ましてや、二人の人間が八十年願い続けた再会を無粋な介入で消し去ろうとしている。何より――花咲つぼみの曾孫の手で。 「――本当に、響良牙さんは生きているんですか!?」 『……とにかく、そちらのオマケは、参加者の遺伝子情報を持たないから、変身ロワイアルの世界に入る時には私が憑依する事で一時的に特異点の力を授けるわ。かつてもその方法で非参加者が入った事例があるようだけれど』 「――――本当に、その人は世界のリセットを望んでいるんですか?」 『それからもう一つ。死神はいま、エターナルの力を強めて、かつてより手ごわくなっているわ。それでも、花咲つぼみと瓜二つの顔をしている桜井花華が前に出れば、確実に油断する――その時にもう一人の“彼”に戦わせて、メモリブレイク。生身になったところで息の根を止めてもらう。憑依すれば私もあなたという実体を動かせるから、しくじっても私が何とかするわ』 「――――――本当に、そんな事に協力しろって言うんですか!? あんまりじゃないですか!? これがもし……もし、おばあちゃんも同じ願いを持っていたなら? 八十年間の歴史を戻すことを、おばあちゃんが望んだなら、今度はおばあちゃんを殺すつもりだったんですよね!?」 『いざという時は、あなたもプリキュアの力をぶつけてメモリを排出してくれれば良い。そうすれば、生身になるし、もう少し彼の殺害が現実的になる』 「――私、堪忍袋の緒が切れました!!!!!! 質問に答えてください!!!!!!!」 花華も、この時ついに、曾祖母同様に堪忍袋の緒を切らしたのだった。 ◆ ……ここから、おれは、あの『死神の花』事件に関わっていく事になる。 オルゴール箱を探すという依頼の答えが提示された直後に、不可能と結論づけたはずのその答えの先におれたちは辿り着いてしまった。 だが、それはこういう話へと続いていく。 この変身ロワイアルの参加者は――残り二人だ。 花咲つぼみと、響良牙。 二人は、「つながった世界」と「孤立した世界」で、それぞれ最後の一人として分かたれ、孤独に生きてきたのだろう。……そして、お互い出会う事を望みながら、しかし出会う事がないまま、盤面に残った最後の駒となってしまった。 確かにお互いが殺し合う事はないが、どちらかが生きている限り、殺し合いは続いてしまう。花咲つぼみがもし、この後で息を引き取れば、その時に響良牙に願いを叶える権利が与えられるだろう。 HARUNAの勢力が求めるのは、響良牙が叶える願いの阻止だ。 それは、おれたちの世界を守るためだと言われている。 とにかく、これまでのキーワードを纏めよう。 オルゴール 変身ロワイアルの世界 エターナルメモリ 優勝者の願い HARUNA ハルナ “彼” 生きていた響良牙が、本当にこの世界を破壊してしまう……というのなら、おれは……。 ◆ 【『死神』――響良牙/変身ロワイアルの世界】 ……おれは、空を見つめた。 今日が、その時だ。 ――遂に、奴らが来る。 ――ここに連れ去られ殺し合いをさせられてから今日までの長い出来事を、おれはずっと思い出していた。 かつて、おれは、ベリアルを倒した爆炎の中からこの地に落ちた時、すべての記憶を失った。 そのままわけもわからず、ふらふらと彷徨い、歩いた先の街で――おれは、男の死体を見つけた。 早乙女乱馬……というよく知った男の死体だったが、その時に思い出す事はなかった。 おれはその時は、ひたすら逃げて……森に辿り着いた。 そこで、おれは冷静に考え――自分こそがその死体を作り上げた殺人犯だという結論に至った。 おれは、気が狂いそうになっていた。 やがて、おれは怪物たちと出会う事になった。 怪物たちの名前はニア・スペースビースト――ダークザギの情報や遺伝子を受けて異常進化し、スペースビーストのように巨大化した微生物たちだったらしい。ただ、おれはずっとわけもわからないままそいつらから逃げ、自分自身の持つ馬鹿力で戦い続けた。 ほとんどの怪物を、おれはなんとか倒す事ができた。ちょっとの損傷ではおれは死なない。必ずしも簡単な戦いばかりではなかったが、なんとか戦い抜いた。 そして、ある日――そんな怪物と戦うさなか、おれは頭を打ち、偶然にも、記憶を取り戻す事になった。 やがて、おれはいくつかの亡骸を見つけて、それを次々と埋葬していった。 最初に埋葬したのは、乱馬の遺体だった。すっかり朽ち果てていたが、おれはあいつを運び、あかねさんのいる傍に、埋めた。 いくつもの墓が出来た後、おれは、この世界で守るべきものも何もなく――強いて言えば、ただ墓守りとして、ただ明日が来るのを信じて、その怪物たちと戦った。 おれには簡単だった。 ロストドライバーを使わなくてもエターナルの力を発揮できるようになったおれは、死ぬ事もなければ、老ける事もない。元々、頑丈な体だ。ただ毎日、相手もいないのに強くなっていくだけだった。 島の中を彷徨い、誰かが落とした支給品や残した支給品なんかも手に入れた。 暇つぶしにはなった。 そんな風に、地獄のような――しかしまだこれより後の地獄を考えれば短いほどの三十日が経った時、あるものがおれの近くで囁いた。 インテリジェントデバイス――クロスミラージュだ。アクマロたちとの戦いで破壊されかけたデバイスだったらしい。 クロスミラージュも、砂に埋もれながら、孤独な状況を嘆き続け、そんな折におれが現れて声をかけたらしい。 それから、しばらくはクロスミラージュとともに二人で、おれは彷徨い続けた。 会話の相手がいるのは信じがたいほどに嬉しい事だった。 それから、時間をかけてイカダを作って外に出て、いくつかの島を見つけた。 そこもまた、無人だった。かつてそこでも殺し合いが行われたように、あらゆる建物や武器の残骸、骨となった人間の跡が残っていた。 果実の実る島を見つけたが、永遠の力を得たおれには、もはや必要がなかった。 それからどれだけ彷徨っても、おれは仲間を見つける事はできず、孤独のままだった。 気づけば、また元の島に戻っていた。手ごたえのない旅を徒労に感じ始めたおれは、別の島に行くのをやめた。 またそれから、毎日、島から出る事もなくつまらない日々を暮らし、戦う相手もしないのに頭の中だけで修行し、おれは、誰かが来るのを待つ事にした。 毎日毎日、ずっと同じ事を考えていた。 彼らもここにいないという事は――左翔太郎や、涼邑零や、高町ヴィヴィオや、蒼乃美希や、佐倉杏子や、孤門一輝や、花咲つぼみは――元の世界に帰れたのだろうか。涼村暁はどうなったのだろう。 彼らは、帰れたとして、その先が救えたのか、そこから先のあの管理世界は終わり、今度こそベリアルとの決着がついていたのか――そんな不安を持ちながら、きっと勝てたと信じ、彼らが助けてくれるのを待った。 だが、来ることはなかった。 もしかしたら、おれは死んだのかと思われているのかもしれない。 おれたちだけが、ふたりで、迷子でここにいた。 そして――クロスミラージュも、ある時に動かなくなった。どれだけ言葉をかけても返ってこなくなり、おれはクロスミラージュも埋めた。 おれだけが、ひとり、迷子になった。 それから、またずっと、長い孤独だった。時間はいつしか数えていない。ある時から、どう流れても一緒だった。いま何十年なのか――百年は経っていないと思う。 その間中、ずっと、誰かの支給品だったらしい、このオルゴール箱はおれの心を癒してくれた……。 悲しみに潰れそうな夜に聞くと、おれは壊れ行く心をなんとか維持できるようになった。 それだけはなんとか、今日まで壊れる事なくおれの傍にあり続けてくれた。 ……そうだ。おれは、あいつらと一緒にその先の未来で過ごす事はできなかった。 ただ、ある時、ある予知の力と、いくつかの情報がおれの頭に過った。 それはダークザギが得た情報と能力だった。一度だけ仲間とともにウルトラマンノアと融合して戦った事や、ニア・スペースビーストを倒し続けた事によっておれも潜在的にその力が覚醒していたのだった。 バカなおれが、ニア・スペースビーストなんていう言葉を作り出せたのも、ノアやザギの情報によるものだ。 そして、ちょっとした予知の能力を得られたおれは、それから十年間、今日だけを待った。 誰かが来る。おれを殺しに来る。 だが、おれはそいつらを撃退する。 ――そして、おれは願いを叶える。 おれはその願いを叶える時の事を、ずっと考えていた……。 この永遠の中で――ずっと、何度思い描いた事か……。 たとえば、あの殺し合いがなかった事にしたい……。 おれはずっと、何度も、そう思い続けていた。 願えば、きっと、おれのこの苦難の時間も忘れ去れさせるだろう。 だが、ひとつどうしても考えてしまう事がある。 最後の一人が願いを叶えるという事は――おれしかいなくなるという事だった。 「――――つぼみ。おまえはまだ、生きているんだよな……。どういう風に……どこで、どういう未来を生きたんだ……? なあ……おれが終わるとしても、世界が終わるとしても、どっちだとしても、せめて……おまえが生きているっていうのなら、おれはおまえと会いたい。おれにとっては、ここで出会った一番の友達だって、おれは――――」 言葉を忘れない為に、おれは時折こうして空に言葉を投げかける。言葉が形を保っている自信は、あまりない。それでも、おれはかつての言葉を思い出した。 おれは、つぼみがかつておれにくれた、花の形のヘアゴムを眺めていた。 あの時身に着けていたこいつも、エターナルメモリの力でおれ同様に、朽ち果てる事なく長い時間を寄り添ってくれている。 つぼみ以外の全員が死んだ事を、おれは悟っている。 そして……。 【残り2名】 ◆ 時系列順で読む Back 世界はそれでも変わりはしない(3)Next 世界はそれでも変わりはしない(5) 投下順で読む Back 世界はそれでも変わりはしない(3)Next 世界はそれでも変わりはしない(5)
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【検索用 きっとほくらははるをむかえに 登録タグ VOCALOID き 傘村トータ 初音ミク 曲 曲か】 + 目次 目次 曲紹介 歌詞 コメント 作詞:傘村トータ 作曲:傘村トータ 編曲:傘村トータ 唄:初音ミク 曲紹介 今回初めて、意識して、自分ではない誰かのために、歌を作りました。(中略)気に入ってもらえるといいな。ね、まだまだ、一緒に生きていきましょう。いつもありがとう。 曲名:『きっと僕らは春を迎えに』(きっとぼくらははるをむかえに) 傘村トータ氏の76作目。 歌詞 (ピアプロより転載) こわくて、涙が止まらなくて、泣いている きっと少し疲れてるんだ こんなご時世だもの 疲れてもしょうがないよな こんなに先が見えないのは 生まれてきて初めてかもしれない みんな不安で、ぼくも不安で でもきっと、でもきっと、 そうさ、きっと 大丈夫、ほんの少しの辛抱さ また楽しく笑える日々がすぐ来るよ きっと、きっとね、 だってこれから春だ 花咲く優しい、優しい季節だ 眠れない夜がなんだか続いて きっとだいぶ疲れてるんだ こんなご時世だもの 疲れてもしょうがないよな 大変なことが次々起こって 規格外の毎日だ、まったく みんな不安で、ぼくも不安で でもきっと、でもきっと、 そうさ、きっと 大丈夫、ほんの少しの辛抱さ またみんなで遊べる日々がすぐ来るよ きっと、きっとね、 だってこれから春だ みんなで、きっと、春を迎えに 一番僕らに足りないものは これ以上の頑張りや緊張じゃなくて 一番僕らに足りないものは たぶん、たぶんね、 深呼吸だね きっと 大丈夫 ほんの少しの辛抱さ また普通の、いつもの日々がすぐ来るよ きっと、きっとね、 だってこれから春だ 僕らはみんな、 花咲く柔らかな 春を、迎えに コメント また好きすぎて設置しました。これからも傘村さんと歩んでいけたら素敵だな。ミスあったら指摘お願いします。 -- みよ (2020-03-03 05 44 49) 傍で寄り添う様な温かさが、じんわりと胸に染みる曲。傘村さんの曲に込める言葉が大好きです。 -- 匿名 (2020-04-26 11 59 34) 東日本大震災の被災者です。ミクちゃんの優しい「大丈夫」を聴いて涙が出ました。今、世界はコロナウイルスに侵され苦しい状況にいます。震災を少しずつ乗り越えようとしている今のようにこのコロナウイルスもゆっくりでも確実に乗り越えて行けたらいいなと思います。貴方の、隣に寄り添って背中を摩ってくれるような美しい音楽が本当に大好きです。この曲を作って下さり本当にありがとうございます。 -- 名無しさん (2020-05-10 21 12 07) トータさんの曲はどれも素敵で、寄り添ってくれている気がします。 -- あめ (2021-07-26 21 22 26) 名前 コメント コメントを書き込む際の注意 コメント欄は匿名で使用できる性質上、荒れやすいので、 以下の条件に該当するようなコメントは削除されることがあります。 コメントする際は、絶対に目を通してください。 暴力的、または卑猥な表現・差別用語(Wiki利用者に著しく不快感を与えるような表現) 特定の個人・団体の宣伝または批判 (曲紹介ページにおいて)歌詞の独自解釈を展開するコメント、いわゆる“解釈コメ” 長すぎるコメント 『歌ってみた』系動画や、歌い手に関する話題 「カラオケで歌えた」「学校で流れた」などの曲に直接関係しない、本来日記に書くようなコメント カラオケ化、カラオケ配信等の話題 同一人物によると判断される連続・大量コメント Wikiの保守管理は有志によって行われています。 Wikiを気持ちよく利用するためにも、上記の注意事項は守って頂くようにお願いします。
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英雄伝説 空の軌跡 the 3rd 配信PART 配信開始日時 Ustream Justin 備考 1 2011/10/16 21 42 1 1→2 初回 2 2011/10/17 20 50 1→2 1→2→3 3 2011/10/19 20 04 1→2→3→4 4 2011/10/20 20 34 1 1→2 Ustream途中切断でアーカイブ途切れ 5 2011/10/22 15 08 1 1→2→3 Ustreamの2は消えました 6 2011/10/23 02 10 1→2 1→2→3 あはーん 7 2011/10/23 14 08 1→2→3 1→2→3→4→5 8 2011/10/24 20 50 1→2→3 1→2→3→4 9 2011/10/25 20 10 1 1→2 最終回
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【登録タグ そ めらみぽっぷ フラワリングナイト メイドと血の懐中時計 凋叶棕 廻 曲】 【注意】 現在、このページはJavaScriptの利用が一時制限されています。この表示状態ではトラック情報が正しく表示されません。 この問題は、以下のいずれかが原因となっています。 ページがAMP表示となっている ウィキ内検索からページを表示している これを解決するには、こちらをクリックし、ページを通常表示にしてください。 /** General styling **/ @font-face { font-family Noto Sans JP ; font-display swap; font-style normal; font-weight 350; src url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/10/NotoSansCJKjp-DemiLight.woff2) format( woff2 ), url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/9/NotoSansCJKjp-DemiLight.woff) format( woff ), url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/8/NotoSansCJKjp-DemiLight.ttf) format( truetype ); } @font-face { font-family Noto Sans JP ; font-display swap; font-style normal; font-weight bold; src url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/13/NotoSansCJKjp-Medium.woff2) format( woff2 ), url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/12/NotoSansCJKjp-Medium.woff) format( woff ), url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/11/NotoSansCJKjp-Medium.ttf) format( truetype ); 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英雄伝説 創の軌跡 The Legend of Heroes HAJIMARI NO KISEKI 2020-08-27/PS4 — キャスト — +※ネタバレ注意!! ロイド・バニングス 柿原徹也 エリィ・マクダエル 遠藤綾 ティオ・プラトー 水橋かおり ランディ・オルランド 三木眞一郎 ノエル・シーカー 浅野真澄 ワジ・ヘミスフィア 皆川純子 リーシャ・マオ 佐藤利奈 キーア・バニングス 釘宮理恵 リィン・シュバルツァー 内山昂輝 ユウナ・クロフォード 東山奈央 クルト・ヴァンダール 江口拓也 アルティナ・オライオン 水瀬いのり ミュゼ・イーグレット 小清水亜美 アッシュ・カーバイド 前野智昭 アリサ・ラインフォルト 堀江由衣 エリオット・クレイグ 白石涼子 ラウラ・S・アルゼイド 伊瀬茉莉也 マキアス・レーグニッツ 佐藤拓也 エマ・ミルスティン 早見沙織 ユーシス・アルバレア 立花慎之介 フィー・クラウゼル 金元寿子 ガイウス・ウォーゼル 細谷佳正 ミリアム・オライオン 小岩井ことり クロウ・アームブラスト 櫻井孝宏 サラ・バレスタイン 豊口めぐみ ルーファス・アルバレア 平川大輔 ラピス・ローゼンベルク 和氣あず未 スウィン・アーベル 梶原岳人 ナーディア・レイン 石見舞菜香 エステル・ブライト 神田朱未 ヨシュア・ブライト 斎賀みつき レン・ブライト 悠木碧 ティータ・ラッセル 今野宏美 アガット・クロスナー 近藤孝行 エリカ・ラッセル ゆきのさつき トワ・ハーシェル 野中藍 アンゼリカ・ログナー 進藤尚美 ジョルジュ・ノーム 森岳志 シャロン・クルーガー ゆかな クレア・リーヴェルト 小清水亜美 レクター・アランドール 森田成一 緋のローゼリア 水橋かおり セリーヌ 相沢舞 ヴィータ・クロチルダ 田村ゆかり デュバリィ 大空直美 オリヴァルト・ライゼ・アルノール 子安武人 シェラザード・ハーヴェイ 塩山由佳 アルフィン・ライゼ・アルノール 佐藤聡美 エリゼ・シュバルツァー 後藤沙緒里 ミュラー・ヴァンダール 磯部弘 オーレリア・ルグィン 住友優子 ヴィクター・S・アルゼイド 安元洋貴 トヴァル・ランドナー 杉田智和 G・シュミット 大塚芳忠 アリオス・マクレイン 森川智之 イリア・プラティエ 浅川悠 アレックス・ダドリー 中井和哉 フラン・シーカー 有島モユ ヴァルド・ヴァレス 龍谷修武 劫炎のマクバーン 諏訪部順一 エンペラー 柳田淳一 F・ノバルティス 真殿光昭 ギルバート・スタイン 菅沼久義 ヘンリー・マクダエル議長 増谷康紀 セルゲイ・ロウ 小山力也 ミレイユ 中原麻衣 シズク・マクレイン 井上富美子 シュリ・アトレイド 小林ゆう ヨナ・セイクリッド 浜崎奈々 グレイス・リン 生天目仁美 セシル・ノイエス 大原さやか セイランド教授 大越多佳子 ガルシア・ロッシ 江川央生 ディーター・クロイス 竹本英史 イアン・グリムウッド 藤本たかひろ ロイ・グラムハート大統領 小山力也 ミシェル 綿貫竜之介 ベッセ 森山侑 サンサン 小松奈生子 チャンホイ 福原かつみ マシュー 佐原誠 フェン 須嵜成幸 ウェンディ 小原莉子 モレット 水野駿太郎 ミミ 道井悠 リーリエ 上野彩音 フランツ巡査 坂泰斗 ジョーイ 横田和輝 リャン 斉藤隼一 ポリセ 結城光 タップ 石川佳典 黒の術士 石井隆之 プルーナ 堀籠沙耶 警備隊員 加藤渉 リナリー 山川朋美 黒月構成員 太田将熙 パック 梶田大嗣 SP 川上晃二 ルース 山田親之條 師団兵 松岡洋平 オットー 弦徳 市民 葉山翔太 【ボイスワークス】 ディレクター 三村雄飛 / 宮崎誠二 音声調整 滝口恵太 音響制作担当 中村翔太 / 荒浪和沙 音響制作 プルームズ(BloomZ) — 製作スタッフ — 【プログラム】 大崎敦史 遠藤徹 / 日置伸宏 / 千代田憲幸 / 張蕊 / 前川真吾 / 平田裕樹 【グラフィック】 松川剛 / 星出慎一郎 長尾一樹 / 山田哲也 伊藤慎一 / 村上星児 / 荒木健 / 田中英登 / 矢吹浩之 / 高居淳 / 吉田麻衣子 / 岡田弘己 / 林宣夫 / 井上俊夫 / 澤村智也 / 肥塚美英 / 森下岳斗 / 平田沙織 土屋里紗 / 田中真人 / 山根英二 / 丹原勇 / 宮西貴也 / 宇都宮颯 / 東航平 中嶌佳子 株式会社 デジタルワークスエンターテインメント ジェムドロップ株式会社 Nippon Ichi Software Vietnam Co., Ltd. 【シナリオ·イベントスクリプト】 宮崎勇太 / 四方俊成 / 李嵐峰 高井孝太郎 / 阿部菫 / 今井静月 / 矢口皓之 / 栗原雅俊 / 高橋志暢 株式会社呉ソフトウェア工房 呉英二 / 梅原正 / 戸崎代志宏 / 関亨 株式会社スタジオアートディンク 小谷友紀 / 光山幸治 / 橋本研一 / 菅野美喜子 / 山中彩佳 / 大家雄介 【ゲームシステム】 根田祥弘 / 本多幸太郎 【音楽 サウンド/Sound Team jdk】 園田隼人 / 宇仁菅孝宏 / 古口駿太郎 神藤由東大 / 真我光生 主題歌「NO END NO WORLD」 編曲:真我光生 ボーカル コーラス:佐坂めぐみ サックス:ADD ギター:関口功二 ベース:目純一郎 作詞:浜田英明 マスタリング:gakia2 【品質管理】 山下英幸 / 大草歩 / 東海林優 / 千智夽 【パブリシティ】 稲垣貴士 / 稲屋秀文 / 星野淳史 / 村上文郁 / 伊東佳織 / 野田大貴 【スペシャルサンクス】 株式会社デジタルハーツ フォントワークス株式会社 啄木鳥しんき 【コーディネーター】 石川三恵子 【ディレクター】 草野孝之 / 竹入久喜 【プロデューサー】 近藤季洋 【ゼネラルプロデューサー】 加藤正幸 - HAJIMARI NO KISEKI - (c)2020 All rights reserved by Nihon Falcom Corporation. https // www. falcom. co. jp/
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世界はそれでも変わりはしない(3)◆gry038wOvE 【『探偵』/希望ヶ花市】 おれのもとに穏やかな眠りをささげてくれないままに、朝はやって来た。 結局、床の上に座ったり寝転んだりしながら惚けて考え込んでいたばかりで一睡もしていない。かといって、花華の邪魔をしては仕方がないので、物音を立てぬようにしていたから、作業を続ける事もなかった。 花華の静かな寝息は、誰もいないこの家にそっと響き続けていたし、彼女は眠りにありつけたのだろうと思う。尤も、その日の夜の蒸し暑さからすれば、クーラーのない部屋では「穏やかな眠り」とは行き難かった事は容易に想像できた。 外で一晩中うるさく鳴いていた猫どもは、いまだ喧嘩を繰り返しているらしい。 おれは、眠れなかった事を口惜しく感じる事もなく、鳴り響いた六時半のアラームに合わせて動き出した。少なくとも、おれは眠らずに三日は動ける。もともと眠りの浅いほうだ。だから飽きもせず探偵をやっていられるのだ。 どしどしと音を立てて動き出したおれの近く――花咲つぼみの部屋があったらしい場所で、ドアの向こうからうなり声が聞こえた。花華が目を覚ましたらしい。おれとは違い、即座に動き出すわけでもなかったようだ。 女が朝起きてから男の前に顔を出すまで、無数の準備がある事はよく知っている。おれは黙ってそのドアの前を去った。 おれはその部屋に背を向けて、物置部屋に立ち寄った。 カーテンが閉じられたその部屋は、朝にも関わらず真っ暗で締め切られている。おれは、その部屋のカーテンを豪快に開けてみせた。部屋はすっかり明るくなったが、西向きの窓は、瞼に悪い朝日の光を見せなかった。 元々花屋である手前、陽の向く場所に花を、陽の当たらない場所に資料を、という構造になっているらしかった。 「よし」 おれは早速日記探しに取り掛かった。膨大な本や資料の山から、欲している日記を探すのはなかなか時間のかかる作業だ。纏まりのない小さな図書館と言っていい。 どうにか掘り起こす為に時間がかかりそうだった。 小さなため息が出そうになった。 「お、おはようございます! ……早いですねっ!」 おれの背中に挨拶が向けられた。 それは花華の声に違いなかった。が、おれは一瞥もせずに、探し物を続けて、「ああ、おはよう」と答えた。感じは悪いかもしれないが、それはおれなりの配慮だった。 何せ、彼女が下階の洗面所まで降りた気配がない。どうせ水道も止まっているので、台所や洗面所に行って蛇口をひねったところで何も出ないが、そのためにペットボトルに水を入れて用意してある。トイレだって流せるくらいの量だ。 髪を手で梳かして歯を磨き口をゆすいで顔を洗っただけのおれに比べ、彼女にはその数倍の労力でパーフェクトの自分を作り出すのだ。さすがに中学生なので化粧まではしないと思うが、それでも髪形を決めるだけでも異様な時間をかける。それを待つくらいの時間、わけはない。 彼女はそのまま「ちょっと顔を洗って来るので失礼します」と声をかけて、すぐに階段を降りて行った。少々急いでいるようだったが、そんな性格なのだろう。朝くらいマイペースに準備しようが責めはしないというのに。 「さて」 おれは、もう一度部屋全体を見た。 おれには進度がいまいち実感できなかった。確かに進んではいるのだろうが、元の量が多いぶんだけ嫌に時間がかかる。 しかし、案外今日中には終わるだろうという確信もあった。午前中に起きてから先は、時間が妙に短く、それでいて捗るのだ。 このまま調子よくいけば気づかぬうちに正午を迎えるだろうし、その頃には部屋の半分はすっかり片付いているだろうと思った。 「……おや?」 と、脇に目をやり、おれはその瓦礫のような本の山の隅に――「×××ぼみ」の文字列を見つける事になった。 その上には結構な本の束が重なってタワーになっているので、これをどかす労力を想像すれば目をそらしたくなるが、手書きの筆跡がおそらく花咲つぼみと同じ物なのは間違いない。そこに花咲つぼみの名前があるからには、おれはそいつを探らなければならないのだ。 ……こいつもスカだろうか、とあまり期待せずにそれを掘り起こして見せた。これまでも何度も花咲つぼみという名前にぬか喜びして、関係ない数式の羅列や漢字の練習が載っていたのを見流してきたのだ。 今度は何だろう。教科書か、ノートか、それともただのポエム帳か。おれは、そんな想像をしながらそちらに一歩だけ足を動かし、手を伸ばした。 「ったく」 上に乗っかっている本の山を、おれは順に片づけ始めていた。本の束を降ろしながら、そちらもチェックしていた。どれかがまたつぼみのものかもしれなかっただ。 しかし、園芸誌のバックナンバーや、大昔の陸上競技誌なんかがビニールの紐で束ねられているだけで、どうやら手がかりではないらしい。これこそもう読まないと決められたうえで、捨て損なったもののようだった。 そうして乗っかっているものを降ろしていくと、そいつはバランスを崩しておれの方に寄りかかってきた。結構な重みのある本の山がおれのつま先の上に雪崩れのように落ちてきた。 「痛てっ!」 鈍い痛みのする左足を抑え、おれは無様にぴょんぴょんと跳ねる。あんまりな事に、思い切り跳ねようにも周りもすっかり足の踏み場がなく、これ以上余計な動きをしようものなら、そのまま倒れてしまいそうだった。 無感情におれの足を攻撃した本の山に、おれは一瞬、怒りさえ感じ、本の山を一瞥した。 すると、――そんな痛みとやり場のない怒りが襲い掛かってはいたものの――そんな苦難に見合うだけの報酬がおれの目に映ったようだった。 腹立たしい量の零れ落ちた古雑誌の向こう、「花咲つぼみ」の名前が書かれたそれは、まぎれもなくおれがさっき目にした「×××ぼみ」のノートだ。 どうやら、そこに花咲つぼみのノートが、そこにまとまって置いてあったようだ。 「――これは……日記帳、か?」 手に取り、めくってみると、日付は2010年ごろだ。 おれは、ちょうどそれは彼女が殺し合いに参加させられた前後のものであるという事を悟る。少なくとも、プリキュアとしての活動を行っている時期の日記であるのは間違いのない事実である。 左から右へと、ざっと流し込むように読んでいき、次々とページをめくる。彼女の人生の起点となる頃の物語が生々しく、彼女自身の筆で書かれていた。想像した通り、読める字で書いてくれてはいるが、それは丁寧な達筆というより、普通に女の子らしい字であったのが少々意外であったかもしれない。 「こいつは……どうやら、お待ちかねの品だ」 しかし、やはりその年頃にしては非常に読みやすく、字が判別できないだとか、文章の意味が伝わらないだとか、そういった事態は発生しないだろうと安心できた。うちの三代前と二代前が書いたらしい報告書よりは出来がよさそうだ。 おれはそいつを純粋に興味深く読んでしまっていた。 「――」 そこにはまず、プリキュアとしての戦いについて、書いてあった。 それから、数日が飛んで、殺し合いからの生還。脂目マンプクの逆襲。 ここまでは、鳴海探偵事務所の一員たるおれも教養として把握している範囲の事だった。いわくのある探偵事務所にいるのだから、そのいわくも人並より詳しくは把握しているつもりである。 だが、それから先は、おれの知らない様々な花咲つぼみの姿が――全世界に中継された殺し合いのなかで生き残った少女が暮らした一日一日と、その心のうちが嘘偽りも誇張もなく記されていく。 響良牙の恋人・雲竜あかりとのファースト・コンタクト。 時空管理局側で保護される事となったオリヴィエに再会した事。 なにやら同級生たちから結構な数のラブレターが届いたらしいという事と、その返答への悩み。 佐倉杏子と再会し、意見の食い違いから些細なトラブルが生じたらしいが、すぐに和解したなどという私事。 孤門一輝が恋人を連れて訪問した事や、すぐあとに開かれる彼らの集まりへの誘いがあった事。 殺し合い終了から一ヶ月が経ち、生還者全員と再会するも一人だけが特別の仕事で来られなかったという事。 当時の志葉家当主――志葉薫より、血祭ドウコクおよび志葉丈瑠(外道としての彼の事だろう)のその後の動向に関する調査について話を聞いたという事。 都内の大学で開かれた異世界移動技術に関する一般向けの学会に密かに参加したが、現段階の彼女ではまるで何もわからなかった事。 来海家の三名が別の街へと引っ越す決意を固め、自分の中の来海えりかとの思い出が遠ざかるのが心の底から寂しかった事。 ……日記は殺し合いから生還してからも、毎日とは言わないながら結構な頻度で書かれており、ほとんどはそういった極私的な事や周囲の観察から始まっていた。 詳しくは伏せるが、必ずしもポジティヴな事ばかりではなかった。 戦いによりプリキュアとしての力を失った彼女は只の人間となったが、完全な一般人と違うのは、「世界に名の知れた有名人になった」という点であった。 それは称えられるという事と同時に、誰かに利用されるという事であり、嫉妬されるという事であり、彼女を無自覚に傷つける言葉を人は想像しえないという事である――鳴海探偵事務所の左翔太郎が辿った運命と同様だった。しかし、彼女の場合は彼よりも、もっとずっと若い少女だったのだ。 その分、とりまく社会は違うし、心はナイーヴでもある。 悪意のない人間が時に彼女を傷つける言葉を放ったらしく、それを憎み切れない孤独なども赤裸々に書かれていた。蒼乃美希や高町ヴィヴィオとはメールのやり取りを頻繁に行い、そこで双方で――傷のなめ合い、と言っては流石に失礼だが、同じ立場ゆえの悩みを吐き出し合ってもいたらしい。他に理解者はいなかった。 おれは、それらに目を通しながら、少し息をついた。 おれもこうして彼女のプライベートを勝手に覗いてしまっている。好奇心や善意で彼女に妙な事を言った連中責められる立場にはない。――「生きて帰れてよかったね」という一言にさえ悩んだ彼女の心境はおれにだって理解できないのだ。 だから、日記を読むのをやめてしまおうかと、少し悩みかけた。 ……尤も、おれはそんな干渉は、即座に殺した。 そいつは、紛れもないおれの探していたものだった。 おれの目的は興味を貪る事でもなければ、花咲つぼみのプライベートを尊重する事でもない。 花咲つぼみがあったからこそ、鳴海探偵事務所は存続し、その場所でおれは働かせてもらっている。その恩義を、彼女の曾孫が求める形で返還する事なのだ。 そのために、おれはこうして有給を使ってまでもゴミ山と格闘し、見つけた資料から手がかりを探っているわけだ。上記の日記だけでも、雲竜あかり、他の生還者、志葉薫などと遭遇しており、このうち孤門一輝と志葉薫はこの家に上げたらしい事だって書いてある。万が一にでも、彼らの荷物に紛れたのなら――という可能性だって否めはしまい。 それを詳しく考えるのが、おれの役目だ。 「――数年分は纏まってるな」 日記は何年分もそこに重なっていた。おれはそれを花咲つぼみの部屋に移動させる事もなく、ぺらぺらとめくり始めていく。 なにやら、この世界の西暦で云う2016年ごろまで、この場所にすべて纏まっていた。 日記は続いていく。 異世界同士がつながって以来初めて起きた「異世界間戦争」のニュースへの、怒り。 相羽兄弟らが生きたテッカマンブレード世界を始めとする他世界の超技術がこの世界に本格的に転用され始め、相互補完的に技術革新が認められた事実への、歓喜。 高校入試と、その結果。 卒業式にて、卒業生代表としての挨拶を求められ、来海えりかや明堂院いつきがここに立てなかった事実を受け止めた事。 佐倉杏子も中学生としてきっちり卒業した事。それと同時に鳴海探偵事務所でアルバイトを始めたのを聞き驚いた事。 かつて信じた「響良牙が生きている」という事実への自信が、自分の中から毎日少しずつ失われていく事への恐怖……。 おれは、佐倉杏子が鳴海探偵事務所で助手として働く事になった経緯や詳しい時期も、この日記を通して初めて知る事となった。彼女の中でも、同じ年頃の杏子が通信制高校に通いながら殆ど探偵業メインで活躍している事実は刺激的だったらしく、結構な文量がそこに費やされていた。 おれは、それが間もなく「左翔太郎に依頼を行った日」に近づきつつあるのを、日付から逆算していた。 少し期待は高まったが、一つ気になった情報があった。 おれはそちらの事をもう一度少し考えた。 響良牙――という名前が、この日記にはよく出てきていた事だ。あのRyogaの名前の元ネタの男だ。出来事としてはまったく絡まないのに、唐突に彼女は響良牙の名前を出す事もあったくらいだった。 それこそ、この世界での友人以外では、生還してコンタクトを取っているはずの左翔太郎や佐倉杏子よりも、その名前が頻出しているようにさえ思えた。蒼乃美希や高町ヴィヴィオはメールで度々話す調子のようなので、そのメールデータが残っていないと比較はできないが、彼女を動かしている強い影響力の一つなのだろう。 無理もなかった。 殺し合いのさなかで行動を共にし、あらゆる場面で双方助け合った名コンビと謳われた響良牙と花咲つぼみ。あらゆる場面で花咲つぼみは響良牙に助けられ、響良牙は花咲つぼみに助けられていた。 あるいは、ふたりの間には――良牙に恋人がいた事から考えるに花咲つぼみが一方的に、想いを寄せていたとも邪推できた。実際にはわからない。探偵特有の下卑た考えなのかもしれない。 だが、どうあれ――この日記の八十年後という時間を生きるおれは、彼女が信じ続けている明日が来ないのを知っている。 何故、彼女は「響良牙が生きている」と仮定しているのかさえ、おれにはわからない。論理的に動いたうえでの事なのか、感情的に動いての事なのかさえわからないが、端から見れば明らかに後者を疑う状況だった。 いずれにせよ、それはラスボスを倒せるほどの純粋な想いだった。しかし、彼女がその想いをどれだけ叶えようとしても、彼女にとってのゴールはなかった。 彼女の生きた八十年――その過程で名誉ある賞を受けたとしても、その原動力となった響良牙への何かしらの想いが叶う事が決してないというのなら、それはあまりに残酷な結末であると思える。 ……いや、それを除いても、だ。既に彼女を取り巻く環境は、見る限り成功者の幸福と呼べるものには見えなかった。 彼女に付きまとったプリキュア、生還者、ノーベル賞受賞者といった肩書は――こういう生き方を選ばされた事が、はたして彼女の人生にとって歓迎される事象だったのか、おれは当人でないからわからなかった。 しかし、どうしても靄がかかる。 本当に、それは「青春」なのか。 いまベッドの中で病魔と闘う彼女が振り返る人生は、まさしく茨の道――不幸の連続でしかないのではないか。 おれには、あの殺し合いは、彼女の中でいまも続いているように思えた。 彼女の周囲が――確実に、変わってしまった事実。これを見て、おれは、あの殺し合いがない彼女の人生というのを考え、友と笑い合って成長する一人の少女を浮かべた。 そこにある苦難や戦いの数と、殺し合いから生き残って、その先を生きる少女に強いられたそれの数とは、秤にかけるまでもないだろうと思えた。そして、その世界の彼女の方がよっぽど、幸せに生きているような予感があった。そこに名誉の賞はないかもしれないが。 世界は、殺し合いに参加させられた彼女の人生は、あの時定められた運命から変わっていない。 ――もし、彼女が殺し合いに巻き込まれなかったとするなら、その方が、ずっと幸せだっただろうと、おれは確信できてしまった。 「――改めて、おはようございます。探偵さん」 ふと、おれは、背後からかかった声に不覚を取られた。 それは、咄嗟にそちらを振り向いた。花咲つぼみの事を考えていたおれは、何だか花咲つぼみの亡霊にでも呼びかけられた気分でいたのだが、そこにいたのは、すっかりパーフェクトな自分を作り出した桜井花華であった。 用件は、単なる朝の挨拶だった。 今日は、頭に花飾りをして、白いワンピースを着ていた。はっきり言って、こんなところよりも森のなかが似合いそうな恰好だった。 おれは、その恰好が全くもって、この埃だらけのゴミ部屋で探し物する恰好ではないのに呆れつつも、再度挨拶を交わした。 「ああ。ほんとうに改める必要があるのなら、おはよう」 「それは――挨拶は、相手の目を向いてするものですから」 「悪かったな。おれとしては、『レディの寝起きの顔を見ないように』という配慮のつもりだったんだが。……いや、すまない。こちらも探し物に気を取られていたんだ」 「いえ、私を待ってくれているのも、何となく察してはいました。……ですから、それを責めてるわけじゃなく――とにかく、個人的にはそれではすまなかったので、もう一度正式な挨拶という事で」 「ああ、わかった、わかった」 彼女は面倒になるほど生真面目だ。おそらくそこが曾祖母との決定的な違いだろう。 控えめなタイプに見えたが、その反面で芯があるというか、むしろ、厄介なほどに自分の在り方を曲げない。それとも、世間の情操教育に忠実すぎるのか。 そのうえ、花咲つぼみが運動神経に自信を持たなかったのに対し、彼女はそれと対極的に「家族に心配されない」ほど、男でさえ撃退する自信があるほど、強い。 いずれにせよ、おれに言わせてもらえば、ハードボイルドに近い存在だ。 いや――そうだな、ハードボイルドと云っては失礼かもしれないので、ここは「委員長タイプ」とでも呼ぶのがいいか。 おれは委員長少女に言った。 「――それよりか、聞いてくれよ、花華。きみの曾祖母の日記が見つかったんだ」 「えっ!?」 彼女は、大きく口を開けて驚いていた。 おれが手に持っている日記に目をやり、横に重ねられたおれの日記と、ものが雪崩れ落ちた形跡のある床を軽く見やった。何があったのかは察してくれたらしい。 そんな彼女がおれの顔を向いた時、おれはしゃべり始めた。 「時期もちょうど、プリキュアになった頃のもの、殺し合いに巻き込まれた頃のもの、あとは以後数年のものだ。手がかりがあるとすれば、この辺りで間違いないだろうと思う」 「ああ、良かったです。私ももっと早く見つけて読みたかったのですが……」 「……花華。これだけの事を一人で勝手に見てしまって、済まないな」 「――それは、別に構いませんし、その為に来てくれたのだから全部読んだって全然良いんですけど」 「いや、きみが先に読んでくれた方が良かったのかもしれないな。もし機会があるのなら、きみもぜひ詳しく読んでみてほしい。曾祖母が、どんな風に生きたのかがわかってくるよ」 「えっ」 「……勿論、おれの方は、あまり詳しくきみの家族のプライベートは詮索しないつもりだがね。少なくともきみには、彼女の心境も含め、これを熟読できる資格があるだろう」 こうは云うが、おれはむしろ、彼女はしっかりと読むべきだろう、それは資格というより義務なのだろうと思っていた。 彼女が自分の行きたい道を――プリキュアとして活動する道を選んだうえで、花咲つぼみというひとがそれを阻もうとしたのなら、そのひとが花華を止めた理由をきっちり見つめておかなければならない。 それが、間違いなくこの日記には書いてあった。 生きるうえで不必要なまでの苦難、暴力的なまでの精神的負担、ともすれば自分で命を絶ちかねないほどの絶対の孤独やトラウマ、帰ってきた場所に友のいない寂しさと後悔。あらゆる物が襲ってきたであろう事は、言うまでもない。 それを次代に継がせようとする者がいるだろうか。 「……」 おれにもまた、かつて探偵という道を選ぶにあたっては、周囲からの反対も無数にあったし、それを振り切って、探偵になる覚悟を決めて、一人になった。 それ以来、両親や家族とは、普通の家庭からすると驚かれるほどに、すっかり会ってもいないし、他の手段で近況を話す事さえない。家族も同じ風都という箱庭に住んでいるのだが、すっかり疎遠になっており、お互いの情報も交わされないまま、冷戦が続いているような状態だ。 べつにそんな関係になった事には未練はないのだが、一つだけ言っておくと、おれはかつて、探偵の道を阻まれた時に家族の心情と向き合う覚悟だけは、全くした覚えがなかった。 家族は、おれがおれの意思で決めた生き方を阻もうとするノイズとして、まったく無視していたのだ。――それを思えば、こうして機会が訪れた彼女は、おれとは違う選択肢を持てる状況だと云える。 ただ、それを促すのも年寄り臭いし、おれは説教好きな年寄りは昔からきらいだった。どうあれ、どうするのが正解とも一概には言えないので、おれはただ彼女に「資格がある」と云うだけだった。 「……わかりました。後でちゃんと持ち帰って目を通します。興味も、ありますから。――それより、肝心の内容ですが、左翔太郎さんに依頼を行った際の事とかは書いてありますか?」 「いや、悪いが、そこはまだ読めていないんだ。しかし、逆算すると、間もなくというところに来ている。彼女はその時点で、どう受け止めたのか――それは気にしておきたいところだな」 そういいながら、おれはページを捲った。 一ページ一ページが、花咲つぼみの中の苦難の一日を経過させていく。それは、文の量に比べてあまりに重々しく感じられた。 花華が、傍らの、おれがもう読み終えた日記の方に手をやった。 まだおれの読んでいないものを読んでくれたところで、話の筋が見えないだろうから、こうして既読のものを読んでもらった方が効率は良い。ここから先、別々の立場から共通の情報を議論できる。 彼女がそこまで考えているとはさすがに思えないが、とにかく都合が良かった。 しかし、だ。 そんな折、花華の腹がぐぅ~~~と長い音を立て、朝飯を欲しがる合図を送った。 彼女が恥ずかしそうに腹を撫でるのを、おれは思わず笑った。尤も、先に笑ったのは、花華だったが。 「……まだ、朝飯を食べていなかったな」 「ええ、そうでしたね」 「まずは、そちらを食べてしまおう。最大の手がかりももう見つかった事だし、一日に習慣を優先した方がいい」 おれはそんな提案を口にした。 「……でも、良いんですか? これを読む為にわざわざ来ていただいたのに」 「資料として、続きが気になるのは確かだ。だがな、こうして作業をすると、時間を忘れる。良いところだ良いところだと言って、永久に読み進めてしまうのが人情だ。キリがなくなるより前に食事にありつこう」 「――そうですね。後からでも読めますし」 「ああ。それに、おれも朝飯はともかく――コーヒーが、まだだった」 おれは、苦いブラックコーヒーを飲みたくて仕方がなかった。 それがおれの朝の文化で、休める日の寝起きの時には欠かせない習慣だった。 うまいかはわからないが、朝飯の食える気の利いたカフェが、この辺りにある。おれは、一度この日記を持って、そこへ向かおうとしていた。 ……こんなものを読みながら朝飯を食おうものなら、この少女は「ご飯を食べながら読書は行儀が悪いですよ」と言ってきそうだが。 ◆ ――ここは希望ヶ花市内のカフェだ。 創業百年という当時からのアンティーク・カフェ。コミュニケーションを嫌ってそうな店員と、木彫りの奇妙な人形が並べられたそこらの戸棚のレイアウト。ファンシーとは対極な店だが、一押しはパンケーキらしい。勿論、俺は頼まないが、向かいの中学生はそれを言われるがまま頼んだ。 おれは、ベーコンエッグサンドイッチとコーヒーだけを頼んだ。花華はパンケーキにハーブティーだ。大した量ではないがほどほどに高い。 肝心のコーヒーの味はそこそこだった。おれは、差し出された砂糖とミルクも入れない。こんな不純物を入れてしまえば、“そこそこ”ですらなくなるからだ。どちらかといえば、このベーコンエッグサンドイッチはうまかった。パン生地や焼き加減に拘りがあるのだろう。来た時点でもうまい匂いがした。 流れる音楽も良い。心を癒すクラシック・ミュージックだ。 だが、少なくとも、おれは、この店が嫌いだった。理由は単純だ。あそこに書いてある――『全席禁煙』。 「――失礼を承知で云いますけど。ご飯を食べながら本を読むのは行儀が悪いですよ、探偵さん」 おれがベーコンエッグサンドイッチを租借しながら日記を読んでいると、案の定、想像した通りの言葉を言われた。当然ナイフとフォークは皿に置いている。おれは次の一口までのわずかな隙間の時間を有効活用しようと資料に再度目を通しただけなのだ。 しかし、言い返す言葉もなく、おれは日記を置いた。 「悪いな、思わず先が気になって」 ともかく、飯を食う時は飯に集中するのが礼儀、との事だろう。おれの中で通すルールの中には、その発想はない。情報を得られるだけの時間は利用しておきたいし、人生の空いている時間はすべて無駄にはしたくないのだ。意見は食い違う。 尤も、ここで話が拗れるほうが人生の無駄な時間が繰り広げられるだろうと汲んで、おれは我慢をする事にした。 「いえ、こちらこそ……。それにしても、良いお店ですね」 そう恐縮しながらおれと合わない意見を告げたのを横目に、おれはさっさと食べ終えた。 食事に時間をかけすぎてしまうのも良くはない。健康や美容の為にどうかは知らない。おれが朝飯にありつきたかったのは、缶以外の温かいコーヒーを飲むくらいの余裕が欲しかったのと、一応の朝飯が食べたかったためだ。 それが案外、コーヒーが美味くもなくまずくもなく、むしろパンの方が美味かったので、どこか調子の外れた気分になる。そんな日もある。 花華はまだパンケーキを食べているが、食事については急かされる事もなくマイペースに食っている。何にでも時間をかけるのは女の性だ。 おれは、その待合時間ならば見事に利用してみせようと思った。 ……おれは、再び日記を手に取る。 ページをぱらぱらとめくり、まだ目にしていないページへ。そこには、遂に左翔太郎に依頼を行った日の事が記されていた。 ……未解決ファイルに記された公的な記録とともに、こうした個人での記録が残っているのは見事な事だ。日付は7月の終わりごろ。高校生となった彼女の夏休みであった。 前後には、高校で出来た友人の事も書いてあるが、必然的に量が多くなるのは長期休暇を利用した『かつての友人』とのふれあいだ。 おれは、それを花華に見せてやろうかと思ったが、それより先に自分で一度目を通して見せた。 『7月30日 今日は、風都にお邪魔しています。翔太郎さんや杏子、それから亜樹子さんのいる鳴海探偵事務所へ、ある依頼に伺いました。本当は美希も連れて行きたかったのですが、今月も忙しいようで、私だけで向かう事になりました。 (中略) 久々に会った杏子は、すっかり風都に詳しくなっていて、いくつかの名所を案内してくれました。――ところで、依頼の方はどうなんでしょう……? それでも風都の人たちは温かく、びっくりするほど巨大なナルトの風麺のラーメンはおいしく、相変わらずとても良い街でした。 希望ヶ花市も良い街なのですが、私は翔太郎さんほど自分の街に詳しくはありません。街を愛する事もとても素晴らしい事なんですよね。(後略)』 ……まあ、外から見て、事件に遭わなけりゃ、あの街も良い街に見える事だろう。人口も多く活気はあって明るい。だが、当時から犯罪都市には違いなく、ガイアメモリなんていう恐ろしい実験が繰り広げられていたような場所だ。 住めばわかる。便利な街だが、必ずしも「良い」だけの街とは言い切れない。おれが個人的に気に入っているだけだ。少なくとも、少女には向いていない。 とにかく、最初はほとんど観光同然の内容だった。 当然だ。今のように、探偵がその日すぐにでも依頼に向かえるほど暇ではあるまい。この探し物の依頼も、風都を出なければ調査する事はできないし、左探偵はアクティヴな性格だったようだが、街から出るのは嫌う。調査はしばらく後になるだろう。 おれは、そんな想いを抱えながら、花咲家に二人が訪問する記述を待った。 『8月3日 杏子と翔太郎さんが私の家にいらっしゃいました。用件は、以前依頼した件についての調査です』 ……数日後だった。 案外、当時からこの事務所は暇だったのだろうか。 その日の日記は当然、そこから先も続いている。 『様々な事を聞かれ、室内も多少探したようですが、結局見つからなかったとの事でした。それから、10日には私が生まれた実家の方を調査してくれるとの話でした。 確かにあの件の後も私の手元にあったはずなんですが……。 しかし、そこまでしてくれるのは本当にありがたく、二人とも二歳になったふたばとを楽しそうにあやしていました。 ただ、翔太郎さんが抱えた時には突然大泣きしてしまい、翔太郎さんのスーツに粗相をしてしまったので……(後略)』 先々々代の恥は読まなかった事にしておこう。 万が一、佐倉探偵がこのくらい頻繁に日記を書く性格であったなら、おれは相当数の左探偵の恥を目の当たりにする事になったかもしれない。 おれは、続けて、依頼に関する記述を探してまたページを捲っていく。 その間も、花華は食事を続けており、おれが一足先に重要な事実に触れている事など気づいてもいないようだった。 『8月15日 鳴海探偵事務所の方から、調査報告書が届きました。未解決にせざるを得ないとの事で、非常に残念な結果でした。 翔太郎さんからの直筆で、「但し、未来、君が必ず果たせる」とだけ書いてありましたが……私が果たしてどうするんでしょう。 それとも、翔太郎さんの事だから、回りくどい言い方をしただけで、何か意味があるんでしょうか? 試しに杏子にもメールで聞いてみましたが、何の事だかさっぱりとの事。ただ、翔太郎さんは無念の様子ではなく、やはり何か知っているみたいだそうです。 ……それならそれで言ってくれればいいのに。 とにかく、この件については、おばあちゃんがかけてくれた言葉を思い出して、前向きに捉えようと考えています。 依頼の方は残念だったかもしれませんが、私の依頼に協力してくれた鳴海探偵事務所や風都の皆さんには感謝でいっぱいです。久々に会えた事も嬉しかったし、またいずれ会えたらと思います。 何より、私はこの件を未来で果たさなければならない、と励まされています。そこにもし意味があるのなら、まずは私自身が今取り組もうとしている事をがんばらないと!』 そうか……。――やはり、左探偵は何かを掴んでいたと見えた。 しかし、日記上でここまではっきりとその事を書かれてしまうと、近づいたようで遠ざかったような気分にならざるを得なかった。 たかがこれだけの依頼の真実を、どうして勿体ぶったのか。 おれにはそれがわからない。裏組織の闇に繋がる事実や、国や大企業が抱えている癒着や不正の記録に辿り着くような内容でもなければ、そこに辿り着くようなプロセスをたどっていたわけでもなかったはずだ。 それを、何故彼は意味深に放り出してしまったのか。 その理由を知るには、おれはまだ早すぎるようだった。 おれはそのページに指を挟みながら、更に日記をぱらぱらと捲っていった。 そこからしばらく、左翔太郎や佐倉杏子と直接のコンタクトを取る事はなく、具体的にこの件について触れる記述はないまま――そして、再び彼らの名前が挙がったのは、この記述だった。 『3月29日 とてもショックな事がありました。私も、まだ気持ちの整理がつけられていません……。 この日の日記はもう読み返す事がないかもしれませんが、今の私が落ち着くために書く事にします。 今日、風都×丁目の道路脇で、翔太郎さんが亡くなったそうです。男の子をかばって車にひかれてしまったとの事で、病院に搬送されて間もなく息を引き取ったと聞いています。 詳しい事はわかりません。 ただ、それを教えてくれた杏子に返す言葉も浮かびません』 ◆ ――この後、おれは日記の続きと、それから花咲家に保管されていた調査報告書を見る事によって、すぐにすべての意味を知った。 そして、それは極めて美しくもあり、時が過ぎた後となっては残酷で、桜井花華という少女にとっては縋りたいはずの奇跡を潰してしまうような結論だと云えた。 尤も、「結論」の意味をおれはこの時、全くはき違えていたのかもしれないが――それは、まあいい。 ……さて、そんな御託よりも、肝心の手がかりの方を振り返る事にしよう。 ◆ 左翔太郎の死、という記述より後は、彼女は思い出に耽るようにして殺し合いに巻き込まれた時の事を回想している。そこでまた、響良牙に関する記述は頻出し、この頃にはすっかりノスタルジックにその話を思い出すようになっていた。 おれにとって、それが幸せな事なのかはやはりわからなかった。 再び花咲家に戻ったおれと花華は、二人で調査報告書を探したのち、日記の先まですべて確認していた。調査報告書の方は、すぐに見つかった。 とにかく、まずは、順を追って振り返ろう。 「――調査報告書は、鳴海探偵事務所に未解決ファイルとして保管されているものと同一の内容だ。ただ、二点を除く」 おれは、こう花華に告げた。 結論から言えば、この事件の調査報告書は、思わぬ収穫だった。 内容は事務所で目の当たりにしたデータとまったく同じながら、そこには日記に書かれていた通りの「但し、未来、君が必ず果たせる」という左翔太郎の肉筆が残されていた。何度か見た彼の肉筆だが、それが強い意味の言葉に感じられたのは初めてだった。 大概は、おれからすればどうでもいい格言やメモ書きだったのだが、その一言には妙に強い感慨が込められていたのである。 ――但し、未来、君が必ず果たせる。 左翔太郎より そして、その下にもう一つある。 佐倉杏子が再調査した際に刻まれた言葉だ。 ――この件の調査は、本日再び終了する。 ――しかし、私も待っている。花咲つぼみの友達として。 ――2017.8.7 佐倉杏子 そんな遠い昔の日付の記録とともに、この依頼は『終了』していた。 妙な納得感を筆に乗せていた佐倉探偵の言葉とともに、探偵たちは自分たちの職務を放棄していったのである。それは敗北や妥協というには、あまりにも小気味の良い言葉であった。 おれは未解決ファイルにこの事件を見た時、この意図のわからない『終了』に、不気味な、そしてネガティヴな意味合いを感じ取っていたが、むしろ事実はその反対なのである。 「この記述は、いずれも花咲つぼみへの個人的なメッセージだ。それも、探偵としてでなく、左翔太郎として、佐倉杏子として書かれたもので――事務所に保管すべき資料には、残っていない」 「こんな言葉を残してたんですね……一体、どういう意味なんでしょう?」 「――つまり、このメッセージは、彼女への『信頼』の意味だよ。彼女こそが最もそれを見つけるに値する人物だと、彼らは結論づけた。そして、佐倉探偵がそれを告げた時に、彼女はそれに納得したんだ」 「……」 何しろ、おれに言わせてもらえば、これは明らかに報告書ではない。――友人二名から宛てられた私信であり、三人だけが理解した暗号かポエムだ。 いまだ鳴海探偵事務所に残されていたあの報告書も同様だ。当人たちしかわからない意味合いが乗っかっている。その時点で――先代やおれがまともに引き継げない時点で、あれはプロの報告書ではないのだ。 しかし、彼らは「プロ」としてでなく、青い感情を伴ったまま、「友人」としてあれをファイルに綴じた。 あの戒めと無念の羅列が綴じ込められたファイルの中で、この一つの報告書だけは、きっと彼らにとっても――読み返す事で、花咲つぼみと繋がれる感傷的な手紙としてしまい込まれていたのである。 「それなら、素敵ですね」 「――いや。信頼というのは、その信頼に応えられなかった時が残酷なんだ」 だから、おれは、答えられない依頼は受けたくないのだった。依頼人たちが希望を受けてしまうのは、おれを信頼しているからに違いない。悪戯な信頼を受けても、それに応える事ができないのなら、受けないに越した事はない。 今回の場合、私的手伝い、と言い換えて金を受け取らないとしても、おれは桜井花華という少女から信頼されつつあるのが少々嫌ではあった。 おれならば見つけてくれるのでは、と思われているかもしれない。だが、残念ながらその信頼には答えられない事がわかりつつあった。 そう、この時――結論まで悟ってしまっていたのだから、なおさらだ。 「信頼は、祝福と呪いの両方を兼ね持っている。信頼される事で人とつながり、心は満たされるが、その代わりにそれを果たさなければならない呪いがかけられ、死ぬまで心を縛る。きみくらいの年頃だ、いくらでも心当たりがある事だろう」 「……」 「勿論悪い事ではないし、それがもし、信頼に応えられるのなら、あるいは応えられなくとも許されて報われるのなら良かったんだが――今回の場合は、ちょっと、な」 そういうと、彼女はおれの方を向いた。 驚いているようだった。今回の話の結末を既に読んで、それを踏まえておれが信頼を論じた事を、彼女はすぐに悟ったのだった。 「何かわかったんですか?」 おれは、答えもせず、ただ花咲つぼみの日記を見やった。 花咲つぼみの日記には、佐倉杏子がメッセージを送った同日、こんな記述がされてあった。 『2017年8月7日 以前の依頼の件で、杏子から調査報告書が届きました。あの件について杏子から聞いた推理は、思いがけないものでしたが、報告書の杏子の言葉は励みになりました。 私は、二人の探偵さんの言葉を信じます。だから、自分を信じて進む事にします。 それより、杏子も仕事がすっかり板について、以前とは見違えるほどしっかりしたカッコいい探偵さんになっていました。 美希だって今はモデル業と並行してデザインの勉強に必死です。 ヴィヴィオはいま、大きな大会を目指して特訓中。 孤門さんもすっかり威厳のある隊長さんで、それと同時に良いパパみたいです。 零さんについては詳しく書けませんけど、相変わらず凄い活躍しているようです。今はどこにいるんでしょう。 みんな良いところはそのまま、それでも立派に変わりました。 ……でも、私も皆さんに負けられません! だって、お二人が私に託したように、私が未来、必ず果たさなければならない事があるんだから!』 おれの中で、もう謎は謎ではなくなっていった。 ◆ ――そう、彼らだけがわかる共通言語があった。誰かがそれを、他人が読めるような言葉として書き記す事はなかったのだった。 特に、彼女の日記の中にある――「探偵の言葉を信じ、だから自分を信じて進む」なんていう一行だって、彼らの共通言語の中でしか意味を成しえない。 だが、因果関係の不明慮なこの文が、彼女たちには強い説得力を伴っているのだ。その行間を見なければ、事実は見えない。 彼らが何を思っていたのか。 この意味を解きたいものは――彼らの共通言語から推理しなければならないのだった。 そして、それは、この時のおれにはある程度推測が立てられていた。 キーワードは次の通りだ。 響良牙 左翔太郎と佐倉杏子のメッセージ 8月15日の日記 8月7日の日記 左翔太郎の事故死 『信頼』 そして、おれが推理した結論と、それをまるっきり裏返すかのような、植物園での出来事は、この後の事だった。 人生は本当に何が起こるのかわからないゲームだ。 これから先、おれがどうなるのかだってわからない――以前、花華にそう頼んだように、彼女に『死神』と呼ばれる事にもなった、いまのおれとしてはだ。 ◆ 【『死神』/花畑】 おれはあれから先――少しばかり長い時間をかけて、遂に記憶のすべてを思い出す事になった。 すべてを思い出したのは、奇妙な怪物に襲われ、頭を打った時の事だった。 かつての事、そして、いまの事、何もかもが頭に浮かんだ。 そして、すべてを思い出すとともに、自分があまりに長い地獄の中に閉じ込められている事に気づいてしまった。 ここは、まさしく真っ当な人間には住まう事のできない地獄だったのだ。 人間も動物もいないが、時折、怪物だけが這って現れた。 おれはなんとかそれを潰していったので、今ではすっかりそいつらが現れる事もなくなっていた。 それから、食えるものを探すのにもかなり時間がかかった。……尤も、おれに本当に必要なのは、食い物などではなかったが。 ――あれからまた相当な時間が経っている。 今のおれを癒すのは、傍らで鳴り響いてくれる音色だけだった。 しかし、おれと違ってこの音色ばかりはいつまでも響かない。 昨日まで傍にいてくれたあいつのように、これもいつか壊れ音を発しなくなるだろう。 本当の孤独はそれから先にある。 それでも、おれはこれからも永久にこの煉獄の中で生き続けるのだろう。 いつかの事を思い出した。 いつかの少女を思い出した。 いつかの――――いつか……いつか…………。 気づけば、おれの両目は、涙であふれていた。 ◆ 時系列順で読む Back 世界はそれでも変わりはしない(2)Next 世界はそれでも変わりはしない(4) 投下順で読む Back 世界はそれでも変わりはしない(2)Next 世界はそれでも変わりはしない(4)
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【作品名】英雄伝説 空の軌跡シリーズ 【ジャンル】RPG 【先鋒】アガット・クロスナー 【次鋒】レン 【中堅】エステル・ブライト 【副将】ケビン・グラハム 【大将】アニマ=ムンディ -参考- アトミックミサイル:核による攻撃、爆発直径30mほど 【共通装備】(先鋒~副将) 戦術オーブメント:クオーツと呼ばれる結晶を嵌めることで様々な効果を引き起こす道具 下記「死の刃2」のクオーツを嵌めた状態で参戦 死の刃2:攻撃を命中させた相手を100%の確率で戦闘不能にする (戦闘不能にするとクオーツが壊れてしまうため、1回限り) 人間、動植物、人外の魔獣や悪魔、機械、幽霊などに有効 3~4mほどの相手にも有効 この効果は各人の技でも発動する グラールロケット:毒、睡眠、混乱、凍結、石化、気絶、即死、技封じ、魔法封じなどを無効化するお守り それぞれの効力は、3~4mほどの魔獣や機械にも効く程度のもの 超・闘魂ベルト:各人の技を使うための能力が自動上昇する道具 これにより技を長期的に撃ち続けることが可能 【名前】アガット・クロスナー 【属性】遊撃士 【大きさ】成人男性並み 【攻撃力】重剣装備 アトミックミサイルを上回る威力 ドラグナーエッジⅢ:剣を振って前方に炎を放つ 射程30m前後 タメは自身と同等の反応の相手が行動する前に撃てる程度 威力は通常攻撃相応 炎の速さは自身と同等の反応の相手に当てられる程度 【防御力】アトミックミサイルに耐える 【素早さ】10mほどの距離から撃たれたレーザーを発射後に回避できる奴が 1回行動する間に4~5回行動できる 移動速度は10mほどの間合いを一瞬で詰める速さで戦闘できる奴と同等 【特殊能力】【共通装備】をひととおり装備している 【戦法】死の刃2+ドラグナーエッジⅢ 【名前】レン 【属性】執行者 【大きさ】10歳の少女並み 【攻撃力】鎌装備 アトミックミサイルを上回る威力 カラミティスロウⅡ:鎌をブーメランのように投げ飛ばす 射程30m前後 タメは自身と同等の反応の相手が行動する前に撃てる程度 威力は通常攻撃相応 鎌の速さは自身と同等の反応の相手に当てられる程度 【防御力】アトミックミサイルに耐える 【素早さ】10mほどの距離から撃たれたレーザーを発射後に回避できる奴が 1回行動する間に4~5回行動できる 移動速度は10mほどの間合いを一瞬で詰める速さで戦闘できる奴と同等 【特殊能力】【共通装備】をひととおり装備している 【戦法】死の刃2+カラミティスロウⅡ 【名前】エステル・ブライト 【属性】遊撃士 【大きさ】17歳の少女並み 【攻撃力】棒術具装備 アトミックミサイルを上回る威力 極・捻糸棍:棒術具を振って前方に衝撃波を放つ 射程30m前後 タメは自身と同等の反応の相手が行動する前に撃てる程度 威力は通常攻撃相応 衝撃波の速さは自身と同等の反応の相手に当てられる程度 【防御力】アトミックミサイルに耐える 【素早さ】10mほどの距離から撃たれたレーザーを発射後に回避できる奴が 1回行動する間に4~5回行動できる 移動速度は10mほどの間合いを一瞬で詰める速さで戦闘できる奴と同等 【特殊能力】【共通装備】をひととおり装備している 【戦法】死の刃2+極・捻糸棍 【名前】ケビン・グラハム 【属性】星杯騎士 【大きさ】成人男性並み 【攻撃力】ボウガン装備 射程10m程度 アトミックミサイルを上回る威力 ゴルゴンアロー:前方にボウガンの矢を撃つ 射程30m前後 タメは自身と同等の反応の相手が行動する前に撃てる程度 威力は通常攻撃相応 矢の速さは自身と同等の反応の相手に当てられる程度 【防御力】アトミックミサイルに耐える 【素早さ】10mほどの距離から撃たれたレーザーを発射後に回避できる奴が 1回行動する間に4~5回行動できる 移動速度は10mほどの間合いを一瞬で詰める速さで戦闘できる奴と同等 【特殊能力】【共通装備】をひととおり装備している 【戦法】死の刃2+ゴルゴンアロー 【名前】アニマ=ムンディ 【属性】世界の意思 【大きさ】十数mの人型 【攻撃力】烈空斬 陰の章:手刀による直接攻撃 核による攻撃を上回る威力 聖痕砲メギデルス:背中に背負った輪っかから砲撃を放つ 射程・効果範囲は約30m アニマ=ムンディと同等の反応の相手が2回攻撃するくらいのタメあり 核による攻撃を上回る威力 邪光波セナーデュウ:対象の身体強化や防護壁を打ち消す 射程・効果範囲は約30m タメ無し 人間に対して有効 核以上の攻撃を防ぐ防護壁でも打ち消し可能 【防御力】核による攻撃を上回る威力の攻撃に耐える 【素早さ】10mほどの距離からの機械によるレーザーを発射後に回避できる奴が 1回行動する間に4~5回行動できる奴と同等の反応 移動速度は大きさ相応 飛行可能 【特殊能力】世界の法則を操作し、混沌と破滅をもたらす(設定) 最低でも大陸規模の世界の法則を操作可能 またアニマ=ムンディの居る世界は想念が現実になる世界であり、 その世界を支配して都市や強い人間を再現したり、悪魔を召喚したりした 【長所】法則操作 【短所】惑星を粉々に砕いてるが演出くさい 【備考】ラスボス 参戦 vol.84 283-384 修正 vol.114 161 vol.84 289 格無しさん sage 2009/04/12(日) 20 38 47 AAキャンセラーの詳細教えて 世の中にはいっぱい核があってな 核手榴弾なんてのもあるし 779 格無しさん sage 2009/04/29(水) 00 42 37 289 激しく遅レスな上にテンプレ作成者でもない俺が答えるけど 核による攻撃はAAキャンセラーではなくアトミックミサイルのほう おそらくテンプレ作成者はどこかで勘違いをしたのではないかと思う ちなみにAAキャンセラーはミサイルだったり空から降ってくる光の槍だったりする 780 名前: 格無しさん [sage] 投稿日: 2009/04/29(水) 21 53 39 ならAAキャンセラーをアトミックミサイルに修正? 783 名前: 格無しさん [sage] 投稿日: 2009/04/29(水) 22 18 17 780 そうだね ちなみにアトミックミサイルを使う敵はたしかAAキャンセラーもつかってくる テンプレ作成者が間違えたのはそのせいじゃないかな vol.100 235 :考察伝説 2chの軌跡:2011/04/17(日) 17 56 36.53 ID 7jf8uhkE 英雄伝説 空の軌跡シリーズ 即死攻撃持ち、核攻防、毒、睡眠、混乱、凍結、石化、気絶、即死、技封じ、魔法封じ耐性 全体的に仮面ライダーの下位互換だがでかい敵には弱そう ×FF7 全員オール7フィーバー負け ○極上パロディウス 【先鋒~大将】反応差で瞬殺 ○SaGa2 【先鋒】げっ、即死無効かよ。と思ったが幽霊も「戦闘不能」にするとあるだけで即死とはどこにも書いてないじゃん。ラッキー。 というわけで死の刃勝ち 【次鋒~副将】同上 【大将】法則操作勝ち 以下は「攻防カスだけど光速に近い素早さでここまで来ました」集団に連勝するため勝ちこし というわけで上も見てみよう ×鋼鉄の咆哮 【先鋒~副将】攻撃範囲広すぎ、たどり着く前に殺される 【大将】法則操作勝ち ×ミカるんX 【先鋒】トロイので攻撃しまくり勝ち 【次鋒】闇→斬られ負け 【中堅】攻撃力高すぎ負け 【副将】倒せない倒されない 【大将】法則操作しても無理っぽいか、分け ○Fate 【先鋒】死の刃勝ち 【次鋒】死の刃勝ち 【中堅】アヴァロン作る前に死の刃勝ち 【副将】相討ち 【大将】相討ち ○仮面ライダー 【先鋒】死の刃勝ち 【次鋒】逃げる前に死の刃勝ち 【中堅】死の刃勝ち 【副将】死の刃勝ち 【大将】法則操作勝ち ×ルーンウルフは逃がさない 【先鋒】転武放輪負け 【次鋒】内部崩壊負け 【中堅】相討ちか 【副将】無理 【大将】圧倒的速度差で殴られまくり負け >FINAL FANTASYⅦ>英雄伝説 空の軌跡シリーズ>極上パロディウス
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世界はそれでも変わりはしない(2)◆gry038wOvE 【『探偵』/希望ヶ花市】 希望ヶ花市――というと、それはプリキュアなる伝説の戦士が活躍した世界の有名な街である。おれは初めて訪れるが、近未来的な――というよりは西洋的な街並みがおれの前に広がる。あまりの清潔さに、おれは少々頭が痛くなった。 多量の風車を設置して風力発電事業を強化し自然共生を謳ったつもりの風都だが、所詮は人工物の詰め合わせである。対して、希望ヶ花はどうも建物や人工物の占める割合は少なく、街の半分は木々や花や植物にまみれていた。それでいて、何故か田舎臭さとは程遠い。田畑だらけで見渡す限り山、というわけでもないからだろう。 かれこれ百年、人類が必死に云い続けている「自然との共生」やら「エコロジー都市」やらに、見た限り最も近づいている都市に見えた。大概、どちらかに偏るものである。 皮肉抜きに素敵な事だ。色んなしがらみを突破しなければ実現できない理想が、ほとんど目の前に来ている。結局のところ、それが一番良い。 だが、その強いしがらみがあるから、おれのようなやさぐれ者が世に生まれるのだ。 尤も、だ。 最初から犯罪都市に生まれたおれである。自ずとそこに馴染むような顔つきになっていったおれは、もっと汚い路地裏のようなところでなければ、サマにならない――ような気がする。おれの無精ひげが世間にどう映るかは、とうに承知しているつもりだ。 世間が想像する「立派な社会人像」、「清潔感のあるさわやかな男性像」には、ここ十年ほど全く歓迎されていなかった。元の風都でもそれは同じ事かもしれないが――あちらにはまだ、おれとウマの合うタイプの奇人は多かった気がする。 おれは、ふだん通り薄汚い黒のテーラードジャケットを着て、褪せた中折れ帽子を被っていた。どうもシャツも皺だらけに見えた――ふだんからアイロンをかけるのが下手だから当たり前か。指で圧をかけて少し伸ばしてみせるが、指で少し挟んだ程度で皺などなくなるわけがない。すぐにあきらめた。 ……これでもおしゃれに決めたつもりだったんだが、どうやらおれのセンスはこの街では通用しないらしい。 道行く人は大昔――1980年代――の2D映画を見せられているようだ。心なしか、そいつらがおれを笑っているような気がした。 「……」 おれは、辺りを見まわして喫煙所を探したが、それもどうやらハードルが高いようだった。この都市にあまり馴染めないおれの心を、穢れが癒してくれる事はなかった。先ほどまでの花華と、立場がすっかり逆になっている。 カプセルホテルも見当たらず、おれは一体どこで寝泊まりすれば良いのかさえも不安に駆られていた。 が、そんな後の事を考えても憂うつになるのは目に見えていた。――おれは、色々な感情を押し込め、ひとまずは花華お嬢の探し物の話に集中する事にしよう。 「――心当たりのある場所を手あたり次第、というやり方では三日の期限に間に合わない。だからといって、それ以上の日数を休んでしまえば、流石にあの事務所も依頼人も現れてしまう。今までの探し方や、既にないと言い切れる場所を教えてもらえると助かるんだが、どうか」 花華に言った。 現場に来たなら、まずは彼女の指示・報告通りに動かなければ意味がない。おれと彼女、どちらが情報を多く持っているかと言われれば当然、彼女だ。 おれのやり方よりも、まずは彼女の直感や心当たりに頼らせてもらう。 「あ、ちょっと待っててください」 すると、花華は、そういって、ポケットの中の自前の携帯端末を取り出した。鮮やかな手つきでそれを少し弄ると、彼女は空中に立体映像を浮かべてみせた。 映されたのは、この街の地図と経路を四次元化した図面だった。 彼女が端末で設定を弄ると、立体映像はこの付近の街並みと同様のARを表示し始めた。おれが中学生の時にはもう少し出来の悪いARを流す地図アプリが流行った覚えがあるが、どうやらそれよりも技術は進化しているらしい。 映像が、極めて鮮明で本物そっくりだった。 「こいつは……」 そう、こいつは、アップルが開発した電子立体地図アプリ――『Ryoga(リョーガ)』とかいう代物だった。 目的地までの経路や状況がリアルタイムで立体表示され、こちらの位置情報をもとに道案内をしてくれるアプリである。 仕組みは簡単だ。過去のマップデータや街頭監視カメラの映像等から、その瞬間の街や目的地の現状をサーチし、リアルタイムでARとして立体映像に映すだけ。 その中から人工知能が、人間視点で目印になりそうな看板などを立体映像上で光らせて注目させ、どこを曲がればいいのかをわかりやすく案内してくれる。 地図が使用者の目に映っている光景を想像・理解し、次に見るべき光景や次に取るべき行動をすべて適格に案内してくれるのである。 少なくとも、おれの頃に流行ったアプリは利用者にはわかりづらい目印で案内してきたし、数か月前の道路情報を前提に案内してくる事がやたら多く使いづらかったが、あれからどう進化したのかは使ってみてのお楽しみだ。 ちなみに、このシステムは、人間が決して立ち入らないような山中や海上さえもカバーしている。遭難した際には現実世界側の海中や山中に設置された信号を光らせる事で、現実のマップそのものに目印を作ってくれるのである。そこが地球の表面である限り、ほとんどの場面で使用可能というアプリで、海産業務や探検家にも重宝されるようになった。 そして、世界的に有名な男性から名を取って、『Ryoga』という名がつけられ、「どんな方向音痴でも確実に目的地にたどり着く」を広告に売り出した。 無論、それは変身ロワイアル会場における最後の死亡者、響良牙の事だった。 直接的に親玉を葬った英雄でもあるが、それと同時に「生きて帰ってくる事がなかった男」である。功績上、その当時活躍した人物の中でも人気は高いため定期的に特集はされるが、徐々にその名はアプリの知名度に乗っ取られつつある。 かく言うおれも、最近あの本をめくるまではすっかり彼の動向を忘れてしまっており、今ではこのRyogaの由来という印象しか持っていない。 そのせいか、「方向音痴」という負の側面ばかりが記憶に残ってしまった。当人にとっては偉く迷惑な話だろう。 ……しかし、だ。そのRyogaが花咲つぼみの曾孫と、左翔太郎の曾孫弟子を案内するとは、なんという奇縁だ。 そんな花華のRyogaには、二か所の行き先登録があった。 「この街なら、ひいおばあちゃんの実家か植物園が残っています。あるとすれば……もしかすると、そこかと」 立体映像で点滅している二つの地点。これがその実家と植物園らしい。実家経由での植物園という形で、現在地からの歩行距離は2.4km。大した距離でもない。 「もう探したのか?」 「いえ。他に探した場所は結構ありますけど……」 「それなら、何故ここは訪れなかった?」 「単純に心当たりがある場所は多くて、私なりに優先順位を決めて探しました。……とは行っても、手近なところから探したんです」 「それで、後回しになったと?」 「……はい」 彼女が頷いた。無理もない。 考えてみれば、交通費も少なくないし、思い切って一人で来るには、彼女の住まいからだと遠い場所だと考えられる。そこに来て見つからないというのはあまりにも徒労だ。そのリスクが見えないわけでもあるまい。 ……しかしながら、一応の最有力候補は間違いなくこの場所である。何しろ、ちょうど失くした頃の花咲つぼみが住み、紛失物を保管していた場所なのだから。 実際、左探偵の未解決ファイル上でも調査を行った場所の一覧はすべて記載されていたが、そこには既に希望ヶ花市内の花咲家や植物園内は記されている。とりわけ、男性である左探偵は花咲つぼみの私物をかき乱さぬよう植物園を優先して捜索、その後に佐倉探偵が花咲家の方もかなりくまなく探したようだ。 ほかにも中学校内を捜索、友人宅も聞き込みをしているが情報なしだったらしい。 もっと言えば、彼らは、その交遊関係から花咲つぼみの実家(希望ヶ花市は転居によって中学二年生の時に移住している)まで電車を走らせて聞き込みまでしており、さすがは友人同士なだけあって入念な捜索がされたと見えた。 そんな事を思い出していると、花華は付け加えた。 「――それに、もしここにあったらもう見つかっているはずだとも、思いました」 これもまた同感だった。 今になっておれが見つけられる可能性は極めて薄いとも思う。何せ、八十年前に左探偵と佐倉探偵が探しているし、そうでなくとも花咲つぼみは何度も家中を探してみせただろう。 そこにあるのなら、誰よりもその骨董品を探していて、誰よりもこの家で生活していたはずの花咲つぼみが見つけられないはずがない。 「……どうする? そう思うのなら、他を探るのも良いし、てっきり複数の心当たりが残っているからこそ、わざわざおれを雇おうとしたものだとばかり考えていたんだが――」 「いえ、曾祖母の住んでいた家は探偵さんと一緒に確実に探したいと思っています。……それに、私もこれ以上多くの心当たりなんて、正直浮かんでないんです。だから、探偵さんに手伝ってもらおうと考えているというのも正直なところです」 「それはどういう事だ?」 さすがに、おれも首を傾げた。 この少女の云いたい事が、即座にはわからなかった。 「……私にとって心当たりのある場所とは言っても、寝たきりのおばあちゃんから聞いたものばかりで、その話だってごく一部の事だと思います。心当たりなんて、本当に少ないんです。私が知っているのはすべて八十歳、九十歳のおばあちゃんとしての曾祖母で、中学生だった頃の曾祖母の事を知ろうとしても、あまり実感がなくて。――だから、探偵さんならそこからヒントを得られるかもしれないと思って聞いたんです」 ……なるほど。 おれは、今ようやく依頼時の彼女の心情を察する事が出来たのだった。 考えてみれば、親族とはいえ、本人でなければ中学時代の事などそんなに詳細に知る筈もない。――彼女ならば聞き出せているかとも思ったが、それは流石に女子中学生以上のキャパシティを求めすぎというものだ。 彼女は、おれにこれから「必ず見つけてほしい」とまでは望んでいないし、「家のものをひっくり返して物を探す力仕事を手伝ってほしい」とも考えていない。彼女は見つかりそうな場所をより多く知りたい――つまり「曾祖母の訪れた場所から、曾祖母が行きそうな場所の手がかりをより多く見つけてほしい」のだ。 おれの役目は、彼女と一緒に花咲つぼみの情報の集積地を調査し、その場で見つけた情報をもとに更なる推理に繋げてくれる事なのだ。 おれは彼女の情報を頼りたかったが、彼女はおれが情報を広げてくれるのを待っている事になる。 「だが、花咲家にはどの程度、花咲つぼみの当時の所有物が残っているんだ?」 「……たぶん、曾祖母の当時の生活の跡は、花咲家に結構残っているはずです。家具は、確かそのまま。研究資料になる物や大事な物は持って行ったかもしれませんけど、中学時代や高校時代の勉強道具や本、小物は残ったままだって、母も言っていました」 「なるほど。内容次第だが、それなら良い。――まあ、昔の貴族のように日記でもつけていたのなら、手がかりも見つかるかもしれないが、流石にそう上手くも行かないだろうな……」 冗談で口にしてみたが、ある筈がない。 花咲つぼみが生きた2010年代ごろといえば、インターネットでウェブログやフェイスブックなるネット日記文化が始まった頃合いである。ソーシャルネットワーキングシステム、だったか。サーバーにもデータは残っていないだろう。 おれのように、タイプライターで紙媒体に文字を起こす決まりの残る奇妙な探偵事務所の探偵が仕事で資料を残すのならともかく、私的な日記を紙に書く人間など八十年前でもいるはずがない。 「あ、それなら大丈夫です」 「何がだ?」 「曾祖母は、毎日日記をつけていました。私も今日帰ったら日記を書く予定ですし、うちは母も祖母も日記を毎日つけていますよ」 「冗談だろ」 「……ちょっと古めかしいかもしれないですね。だけど、私はノートとペンで書いた方が楽しいんです。書いている時も一日に何があったか頭がまとまるし、ちゃんと残って読み返せますし。……あ、だから、たぶん、曾祖母の日記帳も捨てられていなければ花咲家に残っていると思います」 なんという古風な娘だ。昭和時代からやって来たのかもしれない。 しかし、この話については随分と都合が良い事だった。本当に良い習慣を持つ一家である。日記をつけるのがノーベル賞の秘訣だとでも言っておけば、日記帳で一儲けできるかもしれない。 ……無論だが、おれはそんなロジックで人を踊らせるつもりはない。単に日記を継続できるマメな性格の人間が、その性格を活かして成功しただけである。日記を買っただけの人間が成功したのじゃない。 「だが、仮にそれが捨てられていないとして、他の場所には移してないのか?」 「ええ。以前、今の家で興味があって読もうとした事はあったんですが、その時に曾祖母の日記は、二十歳より以前のものはほとんど残っていなかったので」 「読んだのか?」 「一応、途中までは読みました。大学での生活なんかも書いてあって、結構不思議な気持ちになりましたね。特に、曾祖父との出会いに関する――」 「で、手がかりは?」 「――あ、えっと、そちらには手がかりになりそうな物はないと思います。その時は、単純に興味があって読んだだけだったので」 ふと、おれの胸に何か思うところが湧いた。 「――そうか。他人の日記を読んでみせるというのも、なかなか、何とも言えないな……」 「え?」 「いや、その件について、ふと思ったんだ。きみならまだ構わないかもしれないが、プライバシーの観点からすると、赤の他人であるおれがきみの曾祖母の思い出の品をあさってしまうのもどうかとは思うところがある」 考えてみれば、あまり他人に日記を漁られるのは、当人として気持ちが良い事とは限らない。少なくとも、おれがそんな私的な日記を書いたなら、他人に見られるのは勘弁だと思ってしまう。 これまでの探偵人生でも、紙の日記を手がかりにした事など一度もなかったので、あまり想像が及ばなかったが、ネットで大勢に公開しているわけではないデータという事は、内容を秘匿したうえで記録したい心理があるかもしれない。 他人に知られたくない胸中までも書ける――いわば、プライベートの機密情報だ。 おれには、果たして紙文化の日記とネット文化の日記がどう違うものなのか、いまいちわからず、本当にそれを見ていいのかさえよくわからなかった。 少なくとも、自分の意思で外部に公開しているわけではないのなら、あまり見るものでもないと思えてしまう。 果たして、八十年前を生きた人間の感覚はどういうものなのだろうか。 探偵という職業柄、誰かの秘密を見てこなかったワケではないが、依頼ですらない私的活動でそれを行うのも、この内容で花咲つぼみの許可なく行うのも、気が引けるところがあった。 「……それは、そうですけど。でも、おばあちゃんが生きているうちに、このお願いは叶えてあげたいですから――絶対に」 彼女としては、なりふり構わないつもりのようだった。 考えてみればそれも合理的であるといえば合理的だ。彼女の曾祖母が亡くなった時、遺品は整理される宿命にある。結果的に、おれが忌避した手段を多くの遺族や関係者が行うだろうし、そこで手がかりが見つかったとして手遅れだ。 少し強硬的、かつ、非道徳的だが、今更モラリストを気取れる立場でもあるまい。 彼女がこういう以上、彼女に従うのが得策だ。 「オーケー、わかった。きみの曾祖母には本当に申し訳ないが、きみの云う通りにしよう」 頷いた。 先に反対はしたが、その日記に対して、おれ自身の中に湧いている興味は極めて強い方だった。 今回の探し物や変身ロワイアルについての手がかりは勿論、左探偵や佐倉探偵について知れるものもあるだろう。未解決ファイルに残された謎の中に、八十年前の変身ロワイアル参加者にしか知りえない情報が関わってくるのはほとんど間違いない話だと思っているから、それが記載されているかもしれない日記は興味の対象の一つである。 花咲家にはそれを示すヒントがあるかもしれない。 同時に、おれは、ごく、個人的な、封印すべき好奇心も伴っている。 八十年前の記録を、その時代のひとりの女性のプライバシーを覗きたいという、くだらない情が全くないわけでもない。 おれの中にはそんな葛藤があったが、これは仮に日記を見てしまった後も心の底に閉じ込めておこう。――それは当然の流儀だ。 「いま現在は、その家は空き家なんだったな」 おれは余計な事を考えるよりも、もっと別の事を聞く事にした。 これから尋ねる場所がどういう状態にあるのか、だ。 行けばわかる事だが、行く前に色々計画したい事もある。 「ええ。もともとは花屋を営んでいて、二階に部屋を借りていました。そこも曾祖母が継いでいたので、祖父母が住んでもいたのですけど、結局街を越してしまって、いまは――実際、持ち主はいても空き家です。鍵も祖母から預かったものです」 「なるほど」 そんな場所、風都ならすぐに悪党どものたまり場にされそうだ。 あの街では、すべての空き家と廃墟に、悪意と欲望が棲みついている。 「植物園の方はどうだ?」 「植物園の方は、はっきり言ってどうかわかりません。理事としてうちの名義が残っているので、ある程度の権限はありますけど、実際ほとんど営業や管理を外部に委託している形ですから。他のお客さんもいるかもしれませんし、改装はしていないにしろ、おばあちゃんの私物が残っているかどうかは……なんとも」 「わかった。だが、折角来たんだ。一応、行ってみよう。――ただ、その場合、そこの従業員の方が詳しいだろうから、そちらは聞き込みで十分と思えるな。スタッフがほとんど触れない場所、あるいは、関係者に心当たりを訊けば良い話だ。そうだな、やはり、調査は花咲家を優先しよう」 後の方針が簡単に決まり、わずかばかりの安堵とともに、おれは花華と町を歩いた。 花咲家の住所を選択すると、Ryogaは極めて正確におれたちの視界とほぼ同一の立体映像を表示した。それが曲がるべき場所の目印になる看板や標識を教えてくれるし、曲がった先の状況もワイプで表示してくれる。 迷子の名前がつけられているわりには、正確性は極めて高いアプリだった。 折角だ。おれも後で端末からダウンロードして喫煙所探しとカプセルホテル探しに使わせてもらおう。 ◆ ……花咲家には、それからすぐに着く事になった。 そこは、シャッターで閉じられていて、廃墟のような風体だった。シャッターの裏はおそらくガラス張りになっている。明らかに個店を営んでいた建物だったし、その上の階を住まいにしていたのは間違いなかった。 建物としては古い。八十年、おそらくこのままの形で残っている建物だろう。 その間、ちょっとしたリフォームはしたかもしれないが、部屋の中身を全部退いて改築するような大仕事はしていないと見えた。 考えてみれば、風都にもよくあるようなタイプの家屋だった。 我が鳴海探偵事務所も、八十年前から、ある建物の二階をずっと借りている。かつては一階がビリヤード場だったのが、パチンコ屋に変わり、リサイクル屋に変わり、いまは中小IT企業のオフィスだ。 何度か多忙で事務所に寝泊まりした感覚だと、これらの経営者がうちの事務所を買って住まいにするのも案外居心地が良いだろうと想像させる。 おれとしても、出勤が楽なのは最高である。所長の後継者が決まり、あの所長が召された暁には、ぜひともおれの住まいをあの探偵事務所にして頂きたいくらいだ。 ただ、正直、おれは当初、花咲家がこういう家だとは思っていなかったのだ。 花咲つぼみが研究者として有名になった後の事や八十年前の建物である事を考えると、やたらに広い豪邸だとか、あるいは別に倉庫や物置があるとか、そういった想像をしていたのだが――あまりにもふつうである。 ここから始まった、と言い換えて見れば、情の厚い連中には感慨深いのかもしれない。 「ここがひいおばあちゃんの昔の家です」 「ああ」 漏れたのは、間抜けな生返事だった。 確かにここならば、「家の中を探すだけ」なら探偵が必要ない。 むしろ、既に個人が家中のものをひっくり返して探しているのがふつうである。見たところ彼女も賢い部類の少女だ。本当にこの中から探し物を見つけたいなら、自力でやった方が効率は良いと気づくだろう。 尤も、おれとしては、賢くない依頼人にそういうなんでも屋のような雑用係を依頼される事も――そして引き受けざるを得ない事も、珍しくはない話だが。 「開けるのでちょっと待っててください」 彼女が、祖母から預かったという鍵を取り出した。旧式の施錠だ。 この程度のセキュリティで何年も空き家にしたなら――風都なら、開けた瞬間に間違いなく愛する我が家のぐちゃぐちゃに荒らされた後の光景を目にする事だろう。 「……はい、どうぞ」 しかし、数年分の埃をかぶりつつも、案外綺麗な玄関がおれを迎えた。 暗い玄関に正面の小さな窓から注ぐ夕焼け。それは廊下に反射して、家の中をきわめてノスタルジックに映した。まるでおれもどこかへ帰ってきたような気持ちにさせられる。 家族が住んでいたような一軒家に入るのは、何年ぶりだろうか。 昔の恋人に誘われた家に、よく似ていた。 「ん?」 ――ふと、奇妙な胸騒ぎがした。 何年か人間に置き去りにされたこの家は――事件の香りがした。 それはおれが何度か関わるハメになった血、暴力、欲望、狂気の事件とはまた違う類の、もっと得体の知れない何かがこの先にあるような気がした。 おれの背筋を最も凍らせるもの……そう、謎という闇。 おれの想像できる他人と、実際の他人の心の神秘を結びつける、ある種の精霊的なエネルギー。――それがこの先に、ある。 数メートルの距離を無限に見せる不気味な光りと伴った廊下の、この先に。 「花華」 「え? どうかしましたか?」 「いや……。過去にこの家に来た事は?」 「え、一度か二度だけありますけど、ほとんど来た事はなくて――」 「そうか。いや、それなら、良い」 花華の痕跡は、おそらくこの家にはない。曾孫であるとはいえ、それは必ずしもこの家を訪れなければならない理由にはあたらないだろう。 しかし、それにしては、彼女がここに立つのは不気味なほどに似合ってもいた。いまになってみると、彼女もまた不気味に思えるほど、精霊的な存在にさえ思えた。 「別にいいんだ」 八十年前――下手したら、百年前の人間が想像するような、奥ゆかしさという伝説を秘めた美少女。 この時代には、決していないような、古風の魅力を体現した、そんな日本らしい娘。 彼女もまた、何かおれの知らぬ闇を抱え、おれの知らぬ秘密をどこかに隠している。――そんな一抹の予感を覚えさせた。 ◆ 「――曾祖母の部屋は上です。色んなものが保管されている場所があると思うんですが……」 「あ、ああ」 それにしても、警戒心の薄い少女だと、思わされた。 この家の無防備さも心配だが、花華もどうしてここまで無防備に男と二人きりになってしまうのか、おれには理解不能だった。今日会ったばかりの他人、それも間違いなく力でねじ伏せられるだけの体躯を持ったこのおれに、背中を平然と向けて振り向きもせずに階段を歩いていく。 おれは少女性愛者ではないからまだ良いと云えるが、いくら児童ポルノが規制されていった世の中でも、少女性愛者や性犯罪者――あるいはそうなるだけの不甲斐ない男が存在してしまう事実ばかりは、どうにもならない。 そんな事実がある以上、世の中が消し去らなければならない最大の問題は、こうして犯罪が起こりうる場所や状況が完成されてしまっている事なのだ。 嫌な喩えではあるが、いま現在、おれがこの少女を力ずくで犯す事件が発生した、と仮定するのなら、そこには複数の直接的要因がある事になる。 まず、この場合の「おれ」がそういう欲情を持ち、犯罪しうる危ういメンタリティの人間である事が事件の最大の要因になるはずだ。 尤も、少女性愛のニュアンスで語るのは、おれとしては少々疑問が残るかもしれない。彼女はそれなりの背丈や体つきに成長した美少女である。 角度によって赤く美しく光る髪、無垢で整った顔立ち、スレンダーだが肉のつきつつある体。まっすぐストレートに伸ばしつつ、毛先にウェーブのかかった髪は、写真の中の曾祖母と違い、ヘアゴムでは結ばれていない――それだけがかつての生還美少女との違いだった。そんな彼女は、間近で見るとさながら、出来のいい人形のようだ。 もし少女性愛が日本の法律や現代の価値観のうえで禁止されていなかったのなら、男はこのくらい綺麗な少女を愛する事がないとは言い切れないし、このくらいの年の少女が相手なら一概に異常とまでは言い切れない。いまだ合法的に十代の少女と結婚する文化の国はあるし、日本も大昔はそれが当たり前だったわけだ。さすがにそれ以下となると特殊であると思わざるを得ないが、おれの感覚では法律や文化の規制がなければ、すでに多くの男に求婚されていてもおかしくはないのではと思えてしまう。 そうすると、「おれが法律や世代の価値観といった抑止力が働かない、あるいはそれを無視できるほど、欲情が強いか図太い人間であった事」とするのが、本来正しいのかもしれない。 そこに「おれ」の持つ先天的な知能・精神の疾患や、少女幻想を刺激するコミック、錯綜した家庭や教育環境が影響しうるかもしれないが、それはあくまで間接的な原因だ。 次に、このように人気がない場所があるという事だ。家屋の中だから仕方ないというのもあるが、犯罪の最大のトリガーはそれが起きてもおかしくない「管理されていない場所」が存在している事だと思っている。上の犯罪者がむらっと来たなら、それはもう抑えられる事がないだろう。それが出来ると感じさせた瞬間が訪れる、その原因は場所だ。 このネットワーク社会の中でも、いまだ盲点は膨大に存在する。犯行が行われた後には、防犯カメラや衛星写真をきっかけに事件は解決に導かれるとしても、犯行を未然に防ぐには、まだ足りないのだ。 理想は、犯行が行われる直前、あるいは、その瞬間には被害者は守られなければならない。しかし、その壁を取り払う決定的な発展はないまま、時間はいたずらに過ぎていく。犯罪抑止の歴史は、おそらくこの壁を前に、しばらく止まり続けるに違いない。 たとえば、プライバシーエリアであるこうした家屋の中では、結局彼女が被害者となった後でしか事件は発覚しないし、強姦魔になるまでにおれを逮捕する事もできないのだ。 三に、彼女の無警戒さだ。すべての事件において、最も悪いのは当然ながら加害者だが、たとえば今この瞬間のように、被害者が行動に気を付ければ防げるケースにあたる。二人きりにならない、家にあげないといった警戒をすれば、間違いなく襲える状況ではなくなる。 当然、それが出来ない精神状態になる被害者も多いのは実感として知っているが、彼女の場合そうではなく、本当の天然のようだ。 だからこそ、怖い。 おれからすれば、却って隙がない少女に思えるが――それがわからないほど感覚の鈍い男は、あるいはそれを察しながらも欲望を抑えきれない男は、おそろしいほどに多いのだ。 「どうかしましたか?」 「いや、なんでもない。ちょっとした事をきっかけに考えてこんでしまう、発作のような癖が出ただけさ」 「……?」 「だが、きみも、今日はまだ運が良いが――明日からは、人気につかない場所で男と二人きりになるのは避けた方が良いな。夜を前に、こんな男と二人きりで無人の民家にあがりこむのでは、きみの家族も心配するだろう」 「確かにそうかもしれません。ただ、これでも一応空手や護身術は習っていますし……」 「――そういう問題じゃないな」 語調を強めたおれに、彼女は少し驚いて振り返った。 こういう態度を取るのなら、彼女の今後の為にも、ある程度の教育はしなければならないと思ったのだ。 本来それは、今日出会った男ではなく、彼女をふだん取り巻いている環境でもっと身近にいる大人がしなければならない事だが、それがされていないのならば、おれは彼女の親や教師を軽蔑しながらお説教をしておかなければならない。 「おれは、空手やら何やらのきみの実力はまったく知らないがね――きみにいかに相手をねじ伏せられる自信があるとしても、たとえば相手が道具を持っていたら? 複数だったら? 同じく拳法の素養があったら? 仮にきみが全世界一強い女性だったとしても、それを崩す力や手段は、いくらでもあるとおもう」 「……それは……えっと」 「忘れちゃいけない事だ。危険を防止する力と、犯罪や災害を可能とする力とは、いまも同時に進化し続けている。おれたちの前では『昔の犯罪』は起こらなくなっていったかもしれないが、常に『いまの犯罪』が起こる。――この稼業をやっているおれの前に、何人それに巻き込まれたやつが現れたのかは記憶にないほどだ」 ましてや、いまだ稀代の犯罪都市として欲望の渦巻く風都では、珍しい事ではない。おれのいた以前の事務所よりもはるかに凶悪な犯罪に巡り合う事だってあるのだ。 そんな心がけがありうる世界と、その心がけが薄い世界とが、今そっとまじりあった。 「もっと言えば、異世界の人間同士、それもその世界では特殊な能力を持った超人同士が戦ったバトルロワイアルがあった事も、きみにはなじみ深いだろう。……あの中で、当時のその世界の『最強』たちが殺されたのも、生きるなかでは忘れちゃいけない。いまは、ああいう力を持った人間たちが――ああいう力に影響を受けた人間たちが、あれから八十年、世界中でずっと共存している。おれも、そうだったなら?」 「……」 彼女はすっかり黙ってしまった。 これも、おれの悪い癖だ。おれにとって正しいと思っての行動は、常に他人が引いてしまう原因を作り出す。こうして、ぐうの音も出ないほど一方的に話をさせるという事は、みごとに恨まれる結末に至るという事だ。 まったくといっていいほど、彼女に対する申し訳なさというのは出てこないし、自分の行動に対する悲観もほとんどない。 しかし、心ない正論で相手を無自覚にねじ伏せてしまう――この嫌な体質から逃げるのが、将来的な目的だ。 前のように泣かれたら困るので、まずはフォローでもしておこう。 「……悪いな、花華。べつに説教が好きなわけじゃないが――いや、少し言い過ぎた。ただおれは、きみの曾祖母にとって――もっと言えば、きみに関わるひとにとって、最も喜ばしいのは、きみが危ない目に遭う事もなく、安全に生きられる事だろうと思う。おれが言ったのは、その為の手段の一例だ。守ってくれとは言わないが、参考にしてもらえると嬉しいな」 「そ、そうですよね……」 花華の顔がはっきりと歪んだ。 嫌な予感がした。 「ひっく……ひっく……いえ……ありがとうございます……全部、探偵さんの、云う通りです……私が、間違っていました……」 ……冗談だろ。 いまのお説教で本気で感動して泣かれるなんて。 ◆ 花華が泣き止むまで、十分もかかりやがった。 いまは、その次の一時間半が経過して、おれは必死に作業していた。 おれの胸ポケットには、早く火をつけてほしいと泣いているはずのマルボロがいる。さっさと吸い込んでやりたいが、残念ながら肝心の作業の方がまったくできていない。この部屋でタバコを一服するのも常識がないし、はたしておれはいつこいつにありつけるのだと思いながら――六畳ほどの物置部屋で資料探しをしている。 他の部屋がやたらと整理されていて花咲家の性格を感じさせるにも関わらず、この部屋はすっかりガタガタだった。侵入されて荒らされたのかと思ったが、他の部屋の様子がしっかりしているのを見ると、単にここ数年に発生した地震等の振動で書物の山が崩れたのだろうと思う。 どっちにしろ、ゴミ部屋だ。 「これは……なんだよ、理科の宿題か」 「こっちは、ただのノートみたいですね」 「じゃあこの日記は――『花咲ふたば』、またご家族の日記だ」 「なかなか見つかりませんね……」 「これじゃあ確かにな」 確かに、花咲つぼみの所持品が残っている。それは先ほどから確認している。 段ボールに入れられていたり、ヒモで縛ってあったり、保管の方法は様々だ。段ボールの多くはすっかり壊れて、持ち上げるだけで中身が底から落ちてきたりする。お陰でおれにかなりのストレスをぶつけてくれている。 中には、彼女の母のつけたらしい家計簿、彼女の妹の日記、彼女の娘のノートと、この家のものが様々ある。もっと後になると、花華の母の所持品もあるらしい。ここだけで四代の所持品が残っているというわけだ。 個人事業主として保管していた花屋の営業資料もこの部屋にだいぶ残っていた。……おれも、この意味のない資料を残し続けさせられる気持ちはわかる。 だが、肝心の日記がどこにあるのかわからなかった。 探せば探すだけ、絶望がある。 おれと花華は、掘り起こしたうち、花咲つぼみと関係のあるものだけ花咲つぼみの部屋(のちには彼女の孫が使ったのでいまは彼女の部屋ではないが)へ、それ以外をまた別の部屋へと仕分けて、一度この部屋のものを全部空にしようと計画していたが、思いのほか量が多い。 それが今日の夜までにまったく終わりそうにないから、おれは絶望に瀕しているのだ。 「これなら、途中でジュースでも買ってくるべきでしたね」 花華が汗だくで言った。電気も通っておらず、クーラーもない部屋で必死の力仕事だ。夏も近づいている今、彼女ひとりなら、おそらく途中で折れていただろう。 挙句に、さきほどは隙間から現れたゴキブリに驚いて悲鳴を挙げて逃走している。いまも物置部屋に入るのを明らかに嫌がりながら、ドアの近くにあるものだけを取っては別の部屋に置いているような有様だ。 彼女ひとりだったらどうなっていたかと思わされる。 ……とにかく、だ。水の準備がないのはまずい。 電気はまだ携帯端末のLEDライト機能を光源にしてなんとかなるとしても、冷房設備がないいま、水分補給ができないのは、案外危険な状態だ。 「……そうだな。おれが何か買って来よう。このまま探し続けるのは、体力的にも非常に危ない。それに、もうすぐ二十時だ。きみも夕飯を食べていないだろう。用意がないなら、それもおれが買って来るが――何が良い?」 花華にそう言ってみせると、彼女は渋い顔をした。 このままおれだけが去ると、ゴキブリのいる部屋に一人で閉じ込められる……とでも言いたげな不安を見せている。 おれよりもゴキブリが怖かったらしい。 「それとも、一緒に行くか?」 こう言うと、それはそれで渋っているようだった。 2.4kmを歩いた後、一時間半もの遭難者捜索活動だ。しかも、涼しくもない部屋で、重いものを持って移動を繰り返しながら、すっかり汗をかいてフラフラである。水分補給がなかったのも痛手だろう。 加えて、この後でまた近くの店まで水や食べ物を買いに行くのは、ちょっとハードだ。 さすが空手に自信のある花華も、さぼり時というのが正直なところだろう。 「――いいか。じゃあ、少し休んでろ。おれ一人で行ってくる」 「……すみません」 「構わないさ。ただ、戸締りだけはしてくれよ。鍵はおれが持っていくから、ちょっと貸してくれ」 そう言って、おれは花華と、少しだけ会話をしてからそっと外に出た。 外の空気は極めて冷ややかだった。 近くのコンビニでも行って、飲み物と紙コップと適当な弁当やおにぎりでも買って来よう。おれの好みで選んでしまうが、訊いても特に食べたいものを指定されなかった以上、おれが悩む必要はどこにもない。 さて、ここまで来る途中にどんなコンビニがあったか――などと考えた。 思わず、マルボロの箱を取り出して考えそうになったが、いけない。路上喫煙は厳禁だ。おれはタバコを胸ポケットに戻し、歩いて行った。 「――ちょっと」 ……と、数歩も歩かぬうちに、おれの前に、年を食った警官が胸を張って構えて立っていた。まさか、先ほどからここにいたのだろうか。 おれの、背筋に嫌な予感がした。 おれはいままでも探偵として、どういうわけか毎度怪しまれて、警察に何度とない事情聴取を受け、ひどい時はいわれのない冤罪で逮捕されかけている。今回もその時と同じパターンであるような気がした。 疑われるような心当たりは、有り余る。 そして、これまでのパターン通り、彼はおれに向けて口を開いた。 「近隣住民から通報があったんだよ。空き家のはずのあの家から、女の子の鳴き声や悲鳴が聞こえると――」 「おい、ちょっと待ってくれ、話を聞いてくれよ、おれは何も……」 「ダメダメ。とにかく話は、向こうで伺うから。ね、だからこっち来いこっち。――――あー、こちら、××、応援、頼む」 そう言って、警官はマイク越しの誰かに応援を要請し、おれは交番に連れていかれる事になった。 思いのほか、この世界も公僕はしっかり動いているようだ。 ◆ 「冗談だろう」 紆余曲折あって帰ると、花華がすっかり笑っていた。 笑い事ではないが、とりあえず容疑が落ち着いたという事で、なんとか釈放されている。もうすっかり二十二時を回り、探し物は全くはかどっていない状態にある。 彼女も喉の渇きを感じながらこれだけ待って、相当イラついてもいただろうし、警察に突入されて何の事だかわからないまま事情を説明したのも相当手間のかかる事だったろうと思う。 結局、おれの身分をすべて警察に提示させられ、嫌な気分のままカツ丼を食っている。おれをひっとらえた警官が、最後に爆笑しながら、小遣いでコンビニ弁当のカツ丼を奢ったのである。極めてみじめである。 いかれている。警官でなければ殴っている。 「――まったく、職務でおれを連行したまではわからないでもないが、やつにおれの話を聞くだけの理解力がなかったのは厄介だった。その挙句に、おれの名前を聞けば笑い、職業を聞けば笑い、所持金を見ては笑い、最後には服の皺で笑い、言葉を発しただけでさえ笑いやがる」 「災難でしたね」 「ああ、極めてな。だが、それでもきみには、本当に悪かった、遅くなって。喉も乾いていただろうに、なかなか長引いちまった。うまく説得できなかったおれの不手際だ」 「いえ、仕方ない事です。……それより、いま気になったんですけど、探偵さんの名前って、何ていうんですか?」 藪から棒に花華が訊いてきた。 ずっと、「探偵」と呼んでいた彼女だが、それを気にはしていたらしい。ふつう、探偵業でも名刺でも渡して名乗るものだが、おれはそれをしなかった。それは、探偵である以上の事を問われたくないおれの拘りであり――同時に、触れられたくない話であった。 だから、下手に名前の話題など出さない方が良かったのかもしれない。迂闊だった。 とはいえ、彼女にとっては、名前のない相手と過ごすのは少々不安な事だったのかもしれない。その気持ちもわからないでもない。 「不破だ。不破夕二(ふわ・ゆうじ)」 おれは、咄嗟にいつもの名前を答えた。 「そんな名前だったんですね……。でも、笑うほどの名前じゃないような……」 「ああ、まあな」 当然ながら、これは偽名だ。 本名は、出来るのなら伝えたくはない。彼女を騙したい気持ちはないが、出来ればすべての人間に伏せたいと思っている。 人には、そうしなければならない事情があるのだ。 ついて回る名前さえ語れない事情――というのもある。それは珍しい事じゃなかった。おれの依頼人の多くも、名前を名乗れないほどの訳あり者は少なくない。 おれだって、ちょっとした事情を抱えている。 「……だが、花華。おれを呼ぶときは、これまで通り、『探偵』で良い。おれはそっちの方がおれの好みだ」 「え?」 「おれには、名前なんてどうでもいいんだ。おれには、役職だけあればいい。おれは、その役職に誠実である事で、初めて自分自身に誇りを持つ事ができるんだ。今回は私的手伝いとはいえ、その時でもおれは『探偵』と呼ばれた方がずっと気持ちが良い」 「それって、なんだか、かっこいいですね……」 「よせ。照れる」 おれは、まんざらでもなく、薄くはにかんで見せた。 だが、役職に誠実であるという事は――その役職で呼ばれるという事は、決して良い事ばかりではない。『探偵』という一見恰好のよろしい役職でない時も、おれは自分の役職を手放せないという事だった。 おれは殺人鬼になったのなら、『殺人鬼』と呼ばれるしかない。 悪魔になったのなら『悪魔』と、死神になったのなら『死神』と、そういう風に呼ばれるべきだ。気に入らない役職になっても、その呼び名から逃げる事は許されない。 それが、おれの決めたルールなのだから、最後までそのルールを守り通さなければ、おれは極めて狡くて都合の良い人間になってしまう。 これからどんなカードが配られたとしても、おれはその役割に誠実でなければならない――それが、名前を捨てた男の宿命なのだ。 「とにかく、だ。おれの事は、『探偵』と呼んでくれ」 それが、おれの拘りでもあり、――そして、不破などという偽名で呼ばせ続けたくはないという、おれの良心だった。 ◆ さて、作業に戻りたいところだが、あの警官のせいですっかり夜になった。 おれたちは、ひとまずはここから1.1km離れた大型のスパ施設に向かって――風呂だけ浴びて帰ってきている。 少なくともどこかで寝泊まりするつもりではいたから、何枚かのシャツやパンツを持ってきていた。これまでの白いシャツから紅いシャツに着替えて、おれの様相は余計にやくざ者っぽくなった。 おれは、そこからカプセルホテルを探そうとしたが――そう行かなかった。 「本当にここに泊まっていいのか?」 「ええ。行く宛がないなら――」 Ryogaを使って調べてみたが、喫煙所はまだしも、カプセルホテルは全くなかったのだ。おれのような根無し草には絶望的な立地だ。 ネットカフェも相当に遠く、原付なしには行ける場所ではない。 風都に閉じこもりすぎて、世間の不便さをまったく甘く見ていたというところである。地方都市と呼ばれるからには、もう少し住宅街と繁華街とかが近いと思っていたのだが、地方都市の正体は、結局、半分田舎まがいな都市であった。 ……いや、考えてみれば、風都も同じか。 あそこも結局は、本当の都会から見れば、「都会」を自称すれば笑われる。そんなダウン・タウンなのだ。――だからといって、「田舎」と言ってしまえば、今度は本当のクソ田舎から顰蹙を買うが。 「……」 しかし、それはそれとして、先ほど同様、彼女が安易におれを泊めるのには、大きな問題ばかりがあった。 あれほど説明し、彼女は泣いたくらいだというのに――何ゆえにここまで、平然と危険な状況に在れるのだろう。 おれは我慢できず、また余計な口を開いてしまった。 「一応、訊いておきたいんだが、きみはべつに家出をしているわけじゃないよな?」 「えっ」 こうした反応はすっかり慣れてしまった。 おれの咄嗟の一言は、相手にとって即座に理解し得るものではない。 おれは続けた。 「――いや、おれは、きみが親に探し物の旅について、どういう風に話しているのかさっぱりわかっていないんだが――ふつうの親は、電気も通らない空き家に年頃の少女を一人泊まらせる状況なんて作らないと思うんだ。付き添えとは言わないまでも、ここに泊まらせる事なんてあるか?」 「――」 「まして、きみの場合、ここに来たのは一度か二度ほどだと言っていただろう。それで祖父母が中学生の孫に快く貸すとは思えない。この近辺に泊まれる場所がないのは、祖父母だってわかりきっているだろうし、嘘を言って泊まったとしても無警戒が過ぎる。……勿論、放任主義の家もあるだろうが、きみの様子を見るにそうは思えない」 何しろ、だ。 彼女はこれまで非常に淑やかに敬語を使いこなし、年不相応なまでに立派な大和なでしこをやってのけている。その挙句に、毎日日記をつけているだとか、空手や護身術を習っているだとか、あまり放任されるような家の習慣ではない。 おれとは対照的な、ハイソサエティーな空間で生きてきた香りがする。当たり前だ、花咲つぼみというあらゆる意味で著名な人物の家柄に生まれたくらいなのだから。 そのうえ、その環境に対して息苦しさだとか苦痛だとか倦怠感だとかを覚えている様子もなく、今日一日彼女はぼろを出す事もなく、良い娘で居続けている。 だが、無警戒で世間知らずなお嬢様、と呼ぶには――あまりにも聞き分けはなく、大胆でさえあった。 彼女は、何なのだ。 「おれには、理由があるように見える」 そうストレートに告げた。 それは、彼女の、言葉を抑え込むような表情を見て、それが図星なのを悟っていた。 惚けようという様子ではないし――それが出来る性格ではないのはとうにわかっている。 「――……」 彼女は、そんな不安定な表情を一変させ、ふと意を決したような顔立ちへと変わった。――その瞬間を、おれは見た。 「……仕方がありません。そこまでわかっているのなら、あまり誤解の生まれないように、こちらも身分を明かしておきます」 何かある――その想いは、間違っていなかったようだ。 次の瞬間、意を決した彼女はおれの予想を超えた言葉を発した。 「私、これでも――時空管理局所属の、プリキュアなんです」 それが、彼女の答えだった。 そう、まったく予想はしていなかった。つまりは、彼女もまた変身者――あの花咲つぼみと同じようにプリキュアとしての姿を持ち、人並以上の能力を発揮できる、超人的な戦士。 特別えらばれた人間の、一人だったのだ。 「なる、ほど……な」 「……実は、何の因果か、私も曾祖母と同様にココロパフュームを得る事になりました。それは、ずっと以前にこの街に訪れた時の事です。――それから先は、時空管理局と共同して時空犯罪者の制圧のため、時に協力を仰ぐ事になっています」 時空管理局。あらゆる時空の秩序を安定させる為の、いわば国際警察のような組織――彼女はその一員だというのだろうか。 入局の経緯が様々ある事を踏まえると、必ずしもその所属はエリート中のエリート、とは言えないが、いやはや、曾祖母の経歴を考えれば納得もできる話であった。そちらの人間とのコネクションは既にあるわけだし、彼女の場合、奇しくも曾祖母と同様のプリキュアの力を得たというのだから、更に入りやすくもある。 「そのせいか、この頃は家族にもあまりこの程度の事で心配されるようにはならなくなりまして……」 「そうは言うが、……いや、まあ良い。おれには実際どうなのかわからん」 特殊な家系なのだろう、としか言いようがない。これ以上止める言葉もないくらいである。 おれには娘はいないが、もしいるのなら中学生活と並行してそんな危険な副業をやらせるのはあんまりにも危険だと止めるだろう。 ある意味、彼女が信頼されているという証かもしれないが、それでも――彼女への放任は、違和感のあるレベルに思えた。 そんな疑問を知ってか知らずか、彼女はすぐに答えた。 「ただ、探偵さんの言ったように、私が安全でいてくれる事が家族の願いだというのも――、ずっと前、何度も言われた事です」 「言われた事があるのか?」 「ええ、父にも、母にも、祖父にも、祖母にも、特に――曾祖母にも……何度も言われました。でも、それでも、当たり前に変身して、当たり前に戦って、私はやめなかった」 そうか、曾祖母――花咲つぼみは、自分の曾孫がプリキュアとなる事を誰より止めたのだろう。 それは当たり前の事だ。 花咲つぼみにとって、プリキュアとしての生き方が悪い事ばかり運んだわけではないのは、おそらく間違いない。プリキュアは、彼女にとっての青春であり、彼女にとっての誇りであり、彼女がいまの彼女であるためにとってなくてはならない成長の通過儀礼だったのだ。 「特に曾祖母は、一番心配していました。今も心配しているかもしれません。ずっと、ずっと……申し訳ないって思ってるんです。――だから、そんなおばあちゃんの願いは……私がきっと叶えなくちゃいけないんです」 ……しかしながら、彼女はそんな力を持ったゆえに、変身ロワイアルという殺し合いに巻き込まれるハメになり、彼女と同じ力を持った友人たちが次々と亡くなった。 力を持ち続けたがゆえに誰かに目をつけられ、そこでまた、これまでの戦い以上につらい想いを何度もした。 親友・来海えりか、明堂院いつきの死と――それから、いまでは名前も伏せられている、闇に堕ちたプリキュア『少女A』の事(おれはその名前を知っているが)。他にも何人も、それまでの友人や、殺し合いの中で出逢った友人との別れを経験している。 そんな凄惨な事実に直面したせいで、彼女の場合は帰ってから、何度とないPTSDやメンヘルに罹ったなどと、噂で聞いているし、おそらく事実だろう。 それを思えば――愛する曾孫には、何があってもそんなリスクを負ってほしくないというのが、正直なところだ。 ……だが、結局その反対を押し切って、彼女は今、プリキュアをやっている。 だからこそ――彼女は、曾祖母の願いをひとつひとつメモに残して、わざわざ世界を移動してまで、おれに依頼をした。 彼女の事情が、徐々に浮かんできたようだった。 「だが、そうであるとしても……いくらきみが返り討ちにできるとしても、おれのような素性の知れない男を泊めるのは、やはり良くないな」 無論、おれはきっぱりと言った。 彼女がプリキュアである事と、その無防備さは別の問題にあたる。おれは彼女の無防備さの恩恵で宿にありつけるわけだが、それでも彼女を預かる身として――それから、おれの主義として、必ずそれは教えておかなければならない話だ。 そう言うと、そこで彼女は反論した。 「いいえ。それは、また違います」 「何?」 「探偵さんが、悪い人ではないのをわかったうえでの判断です」 「――」 「――それは、今日一日、一緒に話していて、それがとてもよくわかりましたから」 花華は、そう言って、おれににこりと微笑みかけた。 外では、野良猫の鳴き声が、うるさく響いていた。 「ったく……」 そう。 だから、子供は好きになれないのだ。 ちょっとした一面ばかりしか知らないくせして、御世辞を言いやがる。 ◆ ――さて、一日が終わった。 おれは結局、夜までまったくタバコを吸えないままに、もやもやしたものを頭に抱えながら床に就く事になっている。猫の鳴き声もうるさく、間近にある手がかりの山も気になって、眠ろうにも眠れなかった。 もともと、夜は遅くまで起きて、翌日の昼まで眠ってしまう事の多い生活だ。 あんまりにも、無駄な夜だった。 しかし、今日一日を通し、桜井花華という少女には、思いのほか好意的に接されているようだった。 彼女のような年頃の少女におれの言葉や態度が通じるケースは珍しい。大概は、わけのわからない不都合な事を言って来るおっさんとしか見ず、一方的な嫌悪を見せておれの言葉に理解を示さないからだ。 ……まあ、世の中そんなもんだろう。 人の話を聞かない奴は徹底的に聞かない。おれをひっ捕らえたあの老害警官も、おれの説明を一切聞かず、話をするだけで相当な体力を削られた。 それに比べると、彼女との話はスムーズで、会話の相手としてはひどく肌に合う。 尤も、おれは別に彼女と親しくなろうとは考えていない。この手伝いが終わったなら、お互い別々の世界でまったく干渉する事なく過ごすだろう。人間関係など、そのくらいがちょうどよいのだ。 だが、彼女のようなやさしい少女と知り合えてよかった。それは本心だ。 さて、ちょうど頃合いのところで情報をもう一度整理しようと思う。 今回出たキーワードは次の通りだ。 Ryoga 花咲家 花咲つぼみの日記 植物園 不破夕二の本名 桜井花華というプリキュア 実をいえば、今回は――ヒントこそあるが、この事件にとって、大した話ではない。 本当に事が進展を見せていくのは、明日の朝の話だ。 ……そう。 明日の朝、おれたちは遂に花咲つぼみの日記と、二人の探偵が残した奇妙なメッセージを見つける事になる。八十年前の生還者の肉筆にして、彼らがおれの代まで残した本当の、殺し合いのエピローグだ。 そして、その後、おれたちは、植物園に向かい、そこで――――……と、残念だが、この先は言えない。 あまりしゃべりすぎると、楽しみが減ってしまうだろう? ◆ 【『死神』/深い森の中】 おれは、ふらふらと歩いていた。 あの死体から逃れようと必死に走り、気づけば何が潜んでいるか知れない森の中を歩き続け、更に深いところへ迷い込んでいった。そのうちに、体中が痛んだ。 単に疲れたのではない。見れば、おれの身体はひどく血まみれだった。ぼろぼろの身体を癒すものがなかったのだ。 何かがあって、それからずっと気を失って――そして、おそらくそれまでの記憶も、その時になくなった。 ――ここは、どこだ……? 俺は、誰なんだ……? ――それに、どうして、あんなところに死体が……? さきほど見た建物の中に……死体があった。 おれは、それが眠っている人間なのではなく、死んだ――それも殺された人間のものなのだと、即座に知る事が出来た。 もしかすると、おれはかつて死体を見慣れるほど見た男だったのかもしれない。 逃げながらも――それは決して、別に、珍しい物だとは思わなかった。勿論、恐ろしいものだとおもったから逃げてきたのだ。 殺された人間がいるという事は、殺した人間がいる。 だが、どこに……? おれは、ここまで誰にも会っていない。 誰にも会っていないどころか、人の気配さえ見かけていないのだ。 それはつまり……ここには、この世界には――もうおれ一人しかいないという事なのかもしれない。 ――――……そうか。 おれの頭を、ある答えがよぎった。 ……そう。そういう事なのだ。 ……………おれなのだ。 ここまで、死体以外の何を見た? この街、この森、道が続くどこにも人がいないではないか。 まるで、この世界からすべての人間が消えてしまったかのようだ。 この森の中には、動物さえいない。 おれとあの男だけが、世界に残されていたのだとしたら――あの男を殺したのは、おれだったという事になる。 血まみれのおれ。 殺された男。 記憶の無いおれ。 ――――そう、おれこそが、『死神』なのだ。 ◆ 時系列順で読む Back 世界はそれでも変わりはしない(1)Next 世界はそれでも変わりはしない(3) 投下順で読む Back 世界はそれでも変わりはしない(1)Next 世界はそれでも変わりはしない(3)
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【検索用 あのひのきみにあねもねを 登録タグ VOCALOID あ ななち ルベルP 初音ミク 曲 曲あ】 + 目次 目次 曲紹介 歌詞 コメント 作詞:ルベルP 作曲:ルベルP 編曲:ルベルP・ななち 唄:初音ミク 曲紹介 夏と失恋の曲です… 曲名:『あの日の君にアネモネを』(あのひのきみにあねもねを) 『The VOCALOID Collection』ボカコレ 2023年 夏参加作品 ルベルP【3色目 インディクム色】 歌詞 (動画より書き起こし) 何時からこんな事になったっけ あの時 あぁすれば良かったって 答えのない正解を探して 一人ベットの上でさ サナトリウムに映る僕は 大層汚れて見えた様で 心の底から叫んだ声も 虚しく消えていくだけ 矛盾だらけの虚無な言葉 無かった事にされた思い出 どうせ君は"上書き保存"で それならいっそ最初から 出会わなければ良かったのにな 何十回 何百回 何千回 君のことを思ったって 何千回 何百回 何十回 君は振り向いてはくれない "恋"を知ったよ"恋愛幻影" "故意"な一言"絶対絶命" いつだってそうやって 取り繕うとしたんだろ? 何十回 何百回 何千回 君に連絡を入れたって 何千回 何百回 何十回 君は返してはくれなくて 夢に溺れて"ドリームドラウン" 一杯だけの"ドリップコーヒー" 罪悪感消す為のテロルに 被害者面したプロパガンダ 都合のいい時だけ囁いて 二人ベットの上でさ 「孤独」と言う名の病に とうとう医者も匙を投げて 治療法も見つからないまま 脆く朽ち果ててるのさ スマホに刻む「思い出」も 消せないまま時は流れて どうせ僕は"名前付け保存" バラす嘘なら最後まで 隠してくれれば楽だったのにな 何十回 何百回 何千回 君のことが大好きだって 何千回 何百回 何十回 君と話す回数減って 勝って嬉しい"はないちもんめ" 貴方が欲しいよ"離れないでね" 寂しくて泣きたくて 隠し通していたんだろ? 何十回 何百回 何千回 君の手を握ったって 何千回 何百回 何十回 君と会える回数減って たった一言"喧騒"になって 元に戻れると"幻想"抱いて もしも「タイムマシン」があったとして 時を巻き戻せるなら 君と喧嘩する前に戻れば 幸せは取り戻せるのかな いや・・・ 君と出会った思い出すら 無しにできるのなら ここまで苦しまなかっただろうに もう限界 もう限界 そうやって 傷つくのはわかってたのに もう一回 もう一回 甘い言葉 蜘蛛の糸に縋ったんだろ こんな結末"自業自得"でも 何時まで経っても"自問自答"でも いつだって そうやって 抱え込んでいたんだろ? 何万回 何億回 何兆回 君のことを思ったって それでもさ それでもさ 現実は とっても残酷なんだって いつも伝える"会いたい"ってね それでも僕らは"相対"してて 寂しくて 泣きたくて 隠し通していたんだろ? 何万回 何億回 何兆回 君に連絡を入れたって 何百回 何十回 もう零回 君にはもう届かなくって 前に進もう"過去"を抱えて 醜い思い出"加工"してって 夢の中でね君と出会った 最後に笑って言ってやった 今の僕は幸せだって とってもとっても幸せだって コメント 名前 コメント コメントを書き込む際の注意 コメント欄は匿名で使用できる性質上、荒れやすいので、 以下の条件に該当するようなコメントは削除されることがあります。 コメントする際は、絶対に目を通してください。 暴力的、または卑猥な表現・差別用語(Wiki利用者に著しく不快感を与えるような表現) 特定の個人・団体の宣伝または批判 (曲紹介ページにおいて)歌詞の独自解釈を展開するコメント、いわゆる“解釈コメ” 長すぎるコメント 『歌ってみた』系動画や、歌い手に関する話題 「カラオケで歌えた」「学校で流れた」などの曲に直接関係しない、本来日記に書くようなコメント カラオケ化、カラオケ配信等の話題 同一人物によると判断される連続・大量コメント Wikiの保守管理は有志によって行われています。 Wikiを気持ちよく利用するためにも、上記の注意事項は守って頂くようにお願いします。
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キエン&ヒヨク ショウ【登録タグ Duetカード HP 50 PW 20 パー】 種別 Duet/マーク パー/HP 50/PW 20 ILLUST カシぱん 【ボーカル】碧の軌跡 0 あなたのLPが100未満の場合、自分のLPを100になるように回復する。 【コーラス】招き猫ふりけん このボーカルがオンステージした時、手札からDuetカードを1枚選び公開する。 バックヤードにDuet元の2枚の音源が存在する場合、それらに重ねてオンステージできる。 あなたのボーカルが3枚いる場合は無効。 「Today s VB library」で登場。 Duet元 →キエン(C01-02) →陽翼ショウ(C01-06) ボーカル技はLP100以下の時に使えるLP回復技。使用後はLPが100になる。 最大LP90回復は脅威の一言。どんな劣勢時でも初期値の半分まで回復出来るので、その後の相手のアピールにもある程度余裕が持てる。 LPダメージを受けるコーラス技と組み合わせて、コストを帳消しにするのも良いだろう。茎音ムサシで再利用、健音テイでハンデス、雨歌エルでドローと、色々な技が使いやすくなるだろう。 問題はボーカル技ゆえの発動させにくさか。重音テッド等でボーカル技発動権を得たり、ネギっ娘(C02-01)や後音曇流(C05-05)等のじゃんけんマーク変更技と組み合わせて、いつでも発動出来るようにしておきたい。 DUET BONUSは手札のDuetカードを公開し、素材となる音源がバックヤードにあればそれらを抜き出し重ねて特殊オンステージさせる効果となっている。 ルール上、同じ名前のDuetカードを出すと2枚目のDUET BONUSは発動出来ない為、【キエン&陽翼ショウA】を出して効果で【キエン&陽翼ショウB】を出してさらに効果で展開する。と言う事は出来ない。 突然全く別のDuetが出てくる為、相手の不意を付く戦術も可能だろう。バックヤードに素材があれば良いので、序盤にビートダウンさせたボーカルやコーラス技として利用した音源を素材に本命のDuetを奇襲させると言う事も可能。 特殊オンステージに使った重音テト、ボーカル技発動権に利用した重音テッドを重音テト&重音テッドにしてバックヤード回収 ボーカル技を発動させる為に使ったルークと欲音ルコ♀(R01-04)をルーク&欲音ルコ♀にして陰陽反転 互いを参照してビートダウンを行う何音イロと何音シキで相手を削り、最後の一押しに何音イロ&何音シキを出す …等々。新しいDuetカードが出る度に様々な活用法が見いだせる効果になっている。 ただし難点として、複数のDuetカードを積み込むとデッキが重くなると言う欠点がある事を忘れてはいけない。手札事故を防ぐ為にもzontan等の手札入れ替えや、どちらかのDuetカードをピン指しにして計3枚までに抑える等の工夫は絶対に必要だろう。強力な効果を持ったDuetカードであっても、場に出せなければコーラス技にも戦闘にも参加させられない腐った手札になってしまう事を忘れてはいけない。